介護の相談を受けた娘は「関わりたくない」
実際にLMNに依頼があった事例を見てみる。北関東に暮らす80代の母について依頼してきた、都内在住の50代サラリーマンのケースだ。
「『UR住宅に一人で暮らす母親が、ゴミ出しなどのご近所トラブルが絶えないと地域包括支援センターから連絡があった』と息子さんから相談を受けました。母親は初期の認知症を患っていて、暴言や暴力の症状も出ていた。そこで我々は適切な治療を受けられるように入院先を探し、症状が落ち着いたところで有料老人ホームを探して入居してもらいました。現在は月に1回訪問し、依頼者の息子さんに状況を報告しています」(遠藤氏)
この間にLMNが代行したのは、住んでいたURの解約や部屋の片付け・引っ越し作業、老人ホームとの契約だった。
「現役世代は夫婦共働きで子育て中の世帯が多く、特に、離れて暮らす親の面倒を見るのは難しい。子が自分の生活を維持しながら老親にできることは、金銭的な援助くらいしかないのが実情ではないでしょうか」(遠藤氏)
また、関東在住の40代女性は、こんな事情を抱えていたという。
「70代の母と“一切関わりたくない”という依頼でした。もともと母娘の折り合いが悪く、自立してからは連絡も取らず疎遠にしていたといいます。娘さん曰く『毒親だった』と。だが、病気がちになり介護の不安が出てきた母が娘を頼ろうとした。過去のわだかまりをなかったことのように話す母に愛想を尽かした娘さんが、『声も聞きたくない』と依頼してきました。こうしたケースは少なくありません」(同前)
令和の“姥捨山”現象について、宗教学者・島田裕巳氏はこう指摘する。
「少子高齢化で頼れる親戚が少なくなった現代社会では、“親との関係に困ったから〟とプロに間に入ってもらうのは悪いことではない。親を尊敬できない、愛せないという感情を抑えて無理するより、いっそ関係を解消しプロに委ねれば、親子双方にプラスになる面が大きいと思います」
追い詰められた子が親と無理心中を図るなど、介護をめぐる悲惨な事件は後を絶たない。親も子も不幸になるくらいなら「親子の縁を切る」という選択肢が、より現実的になってくるのだろうか。
※週刊ポスト2021年5月28日号