人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第20回は、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからないなか、東京五輪開催を強行しようとする政府の思惑について分析する。
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4都府県を対象とする「緊急事態宣言」が延長されたばかりか、愛知、福岡、北海道、岡山、広島と対象地域が次々に拡大し、「まん延防止等重点措置」も全国的な広がりを見せるなど、コロナの感染拡大が止まらない。政府の対策は後手に回るばかりで、国民の間にも自粛疲れで緩みが見られるなか、「第4波」では変異株が猛威をふるっており、これまでよりも相当厳しい状況にあることは疑いようがない。
大阪をはじめ、医療崩壊が現実のものとなっているにもかかわらず、菅政権は7月から予定される東京オリンピック・パラリンピックの開催を強行しようとしている。国会答弁や会見でも、菅義偉首相は「選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じ、安心して参加できるようにするとともに、国民の命と健康を守っていく。これが開催にあたっての私の基本的な考え方」という発言を繰り返すばかりだ。
思えば、2020年に予定されていた東京五輪の延期を発表した安倍晋三首相(当時)は、「今後人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証として、完全な形で東京オリンピック・パラリンピックを開催する」と発言していたが、現状では「コロナに打ち勝った証」は見えず、「完全な形」とはほど遠い状況にある。
肝心のコロナ対策もおぼつかないなかで菅政権が五輪開催を強行しようとするのはなぜか。最も大きな理由は、「これまでに費やしてきたお金と時間を考えると、簡単には引き下がれない」という行動経済学の「サンクコスト(埋没費用)」の回収にこだわっているからではないだろうか。