遺された家族にとって、葬儀やお墓は労力も費用も大きな負担となる。だからこそ生きているうちに準備を進めておきたいと考える親は多いが、それが裏目に出ることがある。都内の60代元会社員の男性は、先祖代々の墓地には骨壺を納めるスペースが足りないため、定年を機に近郊で墓探しを始めた。その結果、23区内より手頃な郊外の霊園の墓地に決め、永代使用料を支払った。
しかし、男性が子供たちに墓地購入を告げると、戻ってきたのは、予想外の反応だった。
「『そんな辺鄙な場所、お参りできない』と皆から責められました。結局、子供らに押し切られるかたちで、墓石代にするはずの100万円を払って、アクセスのよい都内の納骨堂を契約し直しました。郊外に買った墓地は売買ができないそうなので、現在も保有したままです」(60代元会社員)
葬儀・お墓コンサルタントの吉川美津子氏が指摘する。
「霊園の区画使用権は原則として他の人に売ったり販売会社に買い戻してもらうことはできません。また、最近は都市部の自動搬送式の納骨堂の人気が高まっていますが、こちらは管理費が年間1万~2万円ほど必要になることが多く、固定型の納骨堂に比べて少々高めです。大規模なメンテナンス時に追加費用がかかるリスクもあります」
早くに墓を準備したのに、「業者の倒産」という想定外の事態に見舞われることもある。
2010年には福井県あわら市の寺院が経営破綻した。その際、墓地や納骨堂の所有権が民間管理業者に移行するとともに、墓の移転や骨壺の返還を申し出る人が現われた。
「永代供養墓や納骨堂の場合、寺から開発や販売を委任された会社が倒産した後に業務が別会社に移行して、管理費用などの方針が変わるケースがあります。その場合、原則として墓地の購入費用や永代供養料は戻ってきません」(吉川氏)
早めの準備が、裏目に出ることは多いのだ。
※週刊ポスト2021年6月4日号