掃除の時間に埃が舞い上がるなかでの給食
Aさんは、家の中だけでなく学校の給食でも苦痛を強いられた。中でも、Aさんが「地獄だった」と回想するのは、小学3年生の時のエピソードだ。当時の担任は、班ごとに給食の「完食」を競うゲーム形式を導入した。全員が完食した際には『○班、食べ終わりました』と挙手して報告する。
Aさんはいつも同じ班の人に『邪魔者』扱いされた。「Aちゃんが食べられないから〇班に負けた」「Aと同じ班になったらハズレ」などという言葉が浴びせられたこともあった。だが、「地獄」はそれだけでは終わらなかった。
「昼休みに入り、掃除時間になっても、食べ終わるまで机から離れることが許されませんでした。みんなが掃除をし、埃がもうもうと舞い上がるなかで一人孤独に食べていたものです」
Aさんにとって、自分に選択権がなく、「与えられる」食事は苦行でしかなかった。「早く家を出たい一心」で大学受験の勉強に励み、難関大学に現役合格を果たした。
「浪人したら、また家のご飯を1年間食べなくてはならない。そんなことになってたまるかという気持ちでした。晴れて大学生になり、一人暮らしを始めた時には開放感でいっぱい。それからの人生は、もう好きなものを好きなだけしか食べないと決意しました」
完食させることだけが食育ではない
そんなAさんは、大人になっても、外食で完食できることのほうが少ない。しかも前述の通り食べるのが遅いので、人と食事をするのが基本的に苦手だという。飲み会では、全員で大皿を分け合うようなスタイルならいいが、コース料理のように一人ひとり決まった量が出てくるものはできるだけ避けたいのが本音だ。
「コース料理だと、食べ終えるまでお皿を下げてくれないので、食べるのが遅い私の前にお皿が渋滞していくんです……。注文する前に完食が無理そうだなと思ったら、お腹がすいていても注文しないか、最初から量を減らしてもらいます。他人からみたらまるでダイエットをしている人みたいですが、全然そんなことはない。家で、自分のペースで食べるほうが気楽なだけです」