このように苦しい経験を吐露してくれたAさんだが、感謝している面もあるという。
「完食教育のおかげで、どうしても食べられないものはありません。好き嫌いがないのは、良かったことかなと思います。あと、成長期にいっぱい食べたおかげか、高校生まではポッチャリでしたが、その分身長も伸びました。体重は、大学時代から自分にとっての“適正”量を食べるようになると、自然と標準になりました。母は、すくすくと大きくなった身長について『私のおかげよ』と言い張ります(笑)」
Aさんは、自身の経験から「完食させることだけが食育ではない」と考えるようになった。最後に、こう訴える。
「私は子供の頃の食事に、楽しい記憶がほとんどありません。大人になって、このことを先輩に告げると、『食卓を囲むのって、本来楽しい記憶であるはずなのに……』と驚かれて、ハッとしました。どうか世の子育て家庭では、子供一人ひとりの食べるペースや食べられる量、そして食べている時の表情に目を向けてほしい」