様々な男女トラブルの中でも、「結婚」にまつわる問題は双方の人生に大きく影響するだけに、争いに発展しやすいもの。たとえば、結婚を約束した相手と長い年月を費やした後、一方的に別れを告げられたらどうするか。身勝手な別れを切り出した相手に慰謝料を請求することはできるのか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
娘のことで相談です。最近、娘は結婚の約束をした男性と別れました。その男性とはつきあった当初から「結婚しよう」と言われていたので、それを信じて7年間ずっとつきあってきました。それなのに突然、「別に好きな人ができたから別れてほしい」と言われたそうです。結婚のことは口約束とはいえ、私も娘も納得できません。相手に婚約破棄の慰謝料を請求することはできますか。(三重県・55才・パート)
【回答】
結婚は強制できませんが、結婚する約束、すなわち婚約をしたのに、相手が正当な理由なく婚約を破れば、婚約の不当破棄となり、蒙った精神的苦痛に対する慰謝料を請求できます。もし交際期間中、同棲して事実上夫婦同然に暮らしていれば、すでに内縁関係が成立しており、その解消を求めることは正当な理由がない限り、内縁の不当破棄になるでしょう。その場合は、慰謝料だけでなく、法律上の夫婦の場合と同様に、ふたりで築いた共有財産の財産分与を求めることができます。
しかし、そこまでの関係ではなく、結婚を前提にした交際をしていただけだとすると、そもそも婚約していたといえるかが問題です。単に交際していただけでは、婚約にはなりません。婚約は、結婚しようという合意で成立します。娘さんは7年間交際し、最初から結婚しようと言われて信じたとのことですが、例えば男性からの結納や婚約指輪の交換があったり、お互いの親や親戚などに婚約者として披露したようなことがあれば、婚約が成立したと考えられます。
こうした外形上はっきりした行為や出来事がなかった場合、「結婚しよう」という発言だけで婚約になるかは疑問です。というのは、婚約とは夫婦になる身分関係を成立させることを約束する行為であり、これが成立したというためには、将来婚姻することについての確実な合意が客観的に認められる必要があると考えられるからです。