人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第26回は、“迷走”が続く菅政権のコロナ対応について分析する。
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前回の緊急事態宣言を解除してからわずか3週間、東京都では4度目となる緊急事態宣言が発令された。カレンダーを見返すと、今年に入ってから「緊急事態宣言(1月8日~3月21日)」→「まん延防止等重点措置(4月12日~24日)」→「緊急事態宣言(4月25日~6月20日)」→「まん延防止等重点措置(6月21日~7月11日)」、そしてまたもや緊急事態宣言と“解除しては再び宣言発令”という「迷走」を繰り返してきた。
昨年から続くコロナ禍で人々の自粛疲れも限界に達するなか、切り札のはずのワクチン接種もここに来て供給不足が指摘されるなど、国民の不平・不満が高まるのも当然といった状況にある。各種報道やネットの書き込みなどを見ると、「ここに来てまだ酒もダメ、イベントも中止。生きる楽しみを奪われ続けているのに、東京五輪だけはやるなんて」、「怒りを通し越して呆れる」、「もう疲れた、ついて行けない」といった言葉が目立つ。
何かと“敵視”されてきた飲食店からも、「酒がダメというエビデンスもないのに、“とにかく酒を提供するな”では生き地獄だ」という声が聞かれ、菅政権がギリギリまでこだわった東京五輪の「有観客」も結局断念し、「生で観戦できない上に海外からの観光客需要も無くなって、やる意味あるの?」といった声で溢れている。
現状、安倍晋三前首相時代から何度も繰り返されてきた「安全・安心な大会」、「コロナに打ち勝った証し」とは全くかけ離れており、一体どれだけ「迷走」を繰り返せばいいのか。
株価を見ても、菅義偉首相が緊急事態宣言を発表した翌日(7月9日)の日経平均株価は一時600円超も急落し、2万8000円を割り込んだ。週明けに株価は持ち直したとはいえ、このタイミングでの宣言発出は世界の投資家からもそっぽを向かれた格好である。