一体なぜこんな対応ばかり繰り返しているのか。菅政権の心理的背景を読み解くと、これこそ「心理のゆらぎ」としか言いようがない。為政者としては、コロナ禍で景気が悪くなることにどうにも耐えられない「強迫観念」に駆られる一方で、コロナ禍でも好調な企業からの大きな声は聞こえてこない。するとますます「景気の悪化を何とかして欲しい」という声ばかりが大きく聞こえてきて、その声に捉われる「強迫観念拡大の法則」に陥ってしまう。そのため、感染抑制が実現できたわけでもないのに、すぐ宣言解除してしまうのだ。
“一兎”も追えていない政権
7月4日の都議選では、自民党は過去2番目に少ない議席数となり、目前に東京五輪を控えるなか秋には総選挙も予定され、政権としては「これ以上の失策は許されない」という“恐怖”に駆られる。そして、“緊急事態宣言を解除して何としても景気回復を急ぎたい”という判断に傾き、またしても感染拡大という事態を招いてしまうのである。
いわば、心の中では常に「経済」と「命(コロナ対策)」の天秤がゆらいでいる状態で、「経済」の天秤を重くした結果、宣言を解除し、感染拡大を招いている格好ではないだろうか。
さらに、ワクチン接種が始まり、一時は接種率が上がって感染も減少傾向が見られたことから、為政者の心には“これでコントロールできる”と思い込む「コントロールイリュージョン」が生じた。しかし、それはやはり“幻想”で、実際にはワクチンの供給不足など「目詰まり」を起こしてまだ広く行き渡ってはいない。
その結果、ますます「経済」と「命」の天秤がゆらぎ、どちらを重くすれば良いのか分からなくなってしまう。日本中がコロナに振り回されるなか、本来、一番振り回されてはいけないはずの国のリーダーが混乱している――行動経済学的な観点で見ていくと、そんな「心のゆらぎ」が透けてくるのだ。
菅首相は7月8日の会見で、「先手、先手で予防的措置を講ずる」と発言したが、ここまでの対応を見ると、むしろ「後手後手」としか言いようがない。少なくとも事態を常に冷静に見て的確な判断を下してきた、とは評価できないだろう。
英ロンドンから帰国した知人によると、「日本の緊急事態宣言は甘すぎる」という。ロックダウン(都市封鎖)が行なわれたロンドンでは、街角の商店から卵や小麦粉といった必需品まで消えた。ロックダウンによって売る側や買う人だけでなく、一時は商品の流通まで止まったために、店頭から消えてしまったそうだ。それでもロンドンでは再び感染が拡大しているというから、一筋縄ではいかないようである。