日本の経済成長を支えてきた大企業はもはや老いた。2020年5月、東京証券取引所一部の株式時価総額が、米国のGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)に抜かれた。トヨタ自動車を筆頭に日本を代表する大企業2170社の「価値」が、たった5社の米国ネット企業に及ばない。
7月20日、一人の起業家が宇宙に飛び立った。アマゾンの創業者、ジェフ・ベゾスである。自らが設立した宇宙ベンチャー、ブルー・オリジンが開発したロケット「ニュー・シェパード」はベゾスと彼の弟のマーク・ベゾス、そして二人の顧客を乗せて数分間、宇宙空間を旅した。夢の宇宙旅行が実現した瞬間だ。
ベゾスのライバルで電気自動車ベンチャー、テスラの創業者、イーロン・マスクの宇宙ベンチャー、スペースXはその2ヶ月前、民間企業として初めて有人宇宙飛行を成功させている。世界は、国家の専売特許だった宇宙開発すらベンチャーが担う時代に突入した。暗号資産の登場で通貨の発行すらベンチャー企業や個人の手に委ねられるかもしれない。国家と大企業が絶対的な価値ではなくなった今、起業こそが希望だ。
トヨタもパナソニックもホンダもソニーも、みんな昔はベンチャーだった。起業家はみな、その時代の既得権を破壊する「海賊」だった。だが高度経済成長とバブル崩壊を経て、いつの間にか我々の前から海賊たちが姿を消し、サラリーマンと官僚が取り仕切る体温の低い国になってしまった。
今、常識に囚われず、世界を相手に自由に戦う海賊はただ二人。三木谷と孫だけである。「最後の海賊」三木谷と孫は、この国をどこへ誘おうとしているのだろうか。
(第2回につづく)
【プロフィール】
大西康之(おおにし・やすゆき)/1965年生まれ、愛知県出身。1988年早大法卒、日本経済新聞社入社。日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(日本経済新聞)、『東芝 原子力敗戦』(文藝春秋)など著書多数。最新刊『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)が第43回「講談社 本田靖春ノンフィクション賞」最終候補にノミネート。
※週刊ポスト2021年8月13日号