世界保健機関(WHO)の定義では、65才からが“高齢者”だという。だが、人生100年と言われる現代、65才は「折り返し地点」に過ぎず、この時期の過ごし方が老後の暮らしを大きく左右する。歌手活動に子育て、闘病と様々な経験を経てきたアグネス・チャンが、65才を迎えたいま思うこととは──。
今年で歌手生活50周年を迎えるアグネス・チャン。『ひなげしの花』で絶大な人気を誇っていた当時は、まだ17才だった。
「あれから半世紀も歌っていたなんて、正直、実感がわきません」(アグネス・以下同)
そう笑う彼女も、いまでは65才に。
「香港では65才から公共交通機関が一律2ドルで利用できるようになります。乳がんにかかって闘病も経験したけれど、無事に年を重ねられてよかった」
歌手としてステージに立つかたわら、ユニセフのアジア親善大使をはじめとしたボランティア活動にも打ち込む。プライベートでは1986年に結婚し、同年に長男を出産。3人の子供は、全員海外の名門大学へ進学させた。絵に描いたような“充実した人生”を歩んできたアグネスだが、大きな後悔がある。
「私が21才のとき、父は胆石摘出手術が失敗して、突然命を落としました。まだ若かったから、親孝行なんていつでもできると思っていたし、一度も『パパ、大好きだよ』とは伝えなかったことがいまでも悔やまれます。親との別れって、いつやってくるかわからない。だからこそ、できるうちに親孝行をしておくことは、とても重要だと身をもって感じます」
出産後に働くのは当たり前
盛りだくさんの人生を振り返り、「65才のいま、やっておいてよかったと思うこと」は2つ。1つ目は、10代で日本に行く決断をしたことだ。
「当時、香港から外国に行く人はほとんどおらずよく決断したものだと、自分でも感心します。いまの自分がいるのは、あのときの決断があったから。失敗を恐れず挑戦する気持ちは、いくつになっても必要です。深く考えすぎずに、チャレンジする。失敗から得ることもあるし、その方が後悔しない人生につながると信じています」