アメリカのマッチングサイトでは、女性が求める年収(1000万円以上)や身長(180cm以上)などの条件を満たす男性は、34人の女性に対して1人しかいないという。残る33人(97%)の男はパートナーの候補にすら入れてもらえない。
日本でもお見合い制度が廃れ、会社の上司が仲介するようなこともなくなって、婚姻率が大きく下がっている。
生まれた時に武士や農民といった身分が決まる前近代の社会では、人生は非常に抑圧的だが、そのぶん単純だった。それに対して、価値観の異なるすべての人が自由に生きられるようになれば、利害調整が難しくなって人間関係は複雑になり、社会の分断が進む。世界で最も自由で多様性に富むはずのアメリカで、白人至上主義が台頭しているのはその象徴だろう。
「無理ゲー社会」化は世界規模で広がりを見せているが、さらに日本では「超高齢社会」の現実がある。高齢者の年金や医療・介護を支える現役世代の数がどんどん減り、社会保障の財源が逼迫している。
日本の人口構成を見ればわかるように、高齢世代を支えるためには現役世代から搾取する以外にない。その結果、「祖父母の世代に仕送りをする」という共同体意識はどんどんなくなっていき、若者世代は自分たちを「犠牲者」だと考えるようになった。2025年には団塊の世代約800万人が全員75歳以上の後期高齢者となって、負担増にさらに拍車がかかり、この矛盾があちこちで噴き出すだろう。
(※インタビュー後半〈若者を押し潰す超高齢社会 ねんきん定期便から見える「年金制度の欺瞞」〉に続く)
【プロフィール】
橘玲(たちばな・あきら)/1959年生まれ。作家。国際金融小説『マネーロンダリング』『タックスヘイヴン』などのほか、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『幸福の「資本」論』など金融・人生設計に関する著作も多数。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。その他の著書に『上級国民/下級国民』『スピリチュアルズ「わたし」の謎』など。リベラル化する社会の「残酷な構造」を解き明かした最新刊『無理ゲー社会』が話題に。
※週刊ポスト2021年8月20日号