そもそも「無理ゲー社会」は構造的な問題で、「誰が悪い」とは言えない。「若者が高齢者に押しつぶされる」というのもあくまでも人口動態の話で、高齢者が「加害者」として罪の意識を持つ必要もない。社会の理不尽な構造を前提として、「自分と家族の幸福のためになにをすべきか」を考えればいいのではないか。
定年後も働き続けることに、「若者の働く機会を奪っている」と冷たい目線を向けるのではなく、税金を納めて社会に貢献していると前向きにとらえるべきだ。とりわけ男性は、仕事を離れると人間関係が一気になくなって、生きがいを失いがちだ。経済的にも、精神的な健康のためにも、これからは「生涯現役」が人生設計の基本になっていくだろう。
一人ひとりが自分らしく生きられる社会が素晴らしいのは間違いないが、それは同時に「残酷な世界」でもある。私たちはなんとかして、そんな世界を生きていかなくてはならない。
【プロフィール】
橘玲(たちばな・あきら)/1959年生まれ。作家。国際金融小説『マネーロンダリング』『タックスヘイヴン』などのほか、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『幸福の「資本」論』など金融・人生設計に関する著作も多数。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。その他の著書に『上級国民/下級国民』『スピリチュアルズ「わたし」の謎』など。リベラル化する社会の「残酷な構造」を解き明かした最新刊『無理ゲー社会』が話題に。
※週刊ポスト2021年8月20日号