【最後の海賊・連載第2回 前編】NTTドコモ、KDDI、そして孫正義率いるソフトバンク。日本の携帯電話市場では「3メガ」と呼ばれる大手3キャリアがそのブランドを確立している。そこに割って入らんとする「楽天モバイル」の新規参入は、“無謀だ”と思われていた。しかし、楽天を率いる三木谷浩史には自信があった。大勝負に打って出るきっかけとなったのは、「ある男」との出会いだった。週刊ポスト短期集中連載「最後の海賊」、ジャーナリスト・大西康之氏がレポートする。(文中敬称略)
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2018年2月、楽天グループ会長兼社長の三木谷浩史はスペインのバルセロナにいた。
2年前の2016年、スーパースター、リオネル・メッシを擁する世界有数のサッカーチーム、FCバルセロナ(バルサ)のメイン・スポンサーになってから、三木谷はこの街をよく訪れるようになったが、この日のお目当てはサッカーではなかった。
「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」。毎年この時期にバルセロナで開催される世界最大の携帯電話見本市で、各国の主要な携帯電話事業者、機器メーカーが集結する。楽天がMNO(自前の回線を持つ移動体通信事業者)として総務省から周波数帯域を割り当てられることが正式に決まるのは2ヶ月後の4月だが、三木谷は携帯分野の知見と人脈を広げるためバルセロナに乗り込んだ。
携帯電話会社なら米ベライゾンやスペインのテレフォニカ、通信機器メーカーならフィンランドのノキアや中国の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)、通信向け半導体メーカーなら米クアルコムやエヌビディア。広大な会場には世界中の携帯電話関連企業が、巨大なブースを構え、競って最先端の技術を展示している。
三木谷は各社のブースを訪れ、首脳陣から直接、話を聞いた。楽天がアポを申し入れると、ほとんどの会社の首脳陣が時間をくれた。
「ああ、バルサのスポンサーのRakutenか」
通信業界で無名の楽天が各社首脳のアポを取る時に、バルサのスポンサーとして名前が知られていることは大いに役に立った。
今回の視察で三木谷が「どうしても会いたい」とリクエストしていた会社があった。インドの新興通信会社、リライアンス・ジオだ。インド屈指の財閥リライアンス・インダストリーズがジオを設立して携帯電話事業に参入したのは2016年。まっさらの状態からインフラ整備を始めた最後発であるにもかかわらず、わずか4年で加入者数4億人を超える世界3位にまで駆け上がった。その圧倒的なスピード感に三木谷は魅力を感じていた。
ジオのアポイントを取り付けたのは米通信機器大手、シスコ・システムズの日本法人社長から楽天に移った平井康文だ。面談にこぎつけ、MWCのシスコのブースで、バルセロナに来ていたCTO(最高技術責任者)らジオの幹部4、5人と面談した。