墓に対する価値観が多様化している昨今、なかでも人気なのが「樹木葬墓」だ。樹木葬墓とは、墓石の代わりに樹木を墓標とし、遺骨を土中に納骨する様式の墓のこと。1999年に岩手県一関市にある祥雲寺(現・知勝院)が最初に始め、自然回帰の考え方や、墓の跡継ぎを必要としない点が注目されて人気を呼び、全国へと広がっていった。
だが樹木葬墓は、定義が曖昧であるがゆえの“勘違い”も起こりやすいという。終活コンサルタントの吉川美津子さんが話す。
「最初は、墓地として許可されている里山に遺骨を納骨し、そこに花や木を植えていたのですが、土地の狭い都心部では、そこまでできないため、寺の墓地や霊園の一角に緑豊かなスペースを設けてそこに埋めるなど、さまざまな形に派生していきました。都心部では名称も『樹林墓地』などとして、樹木葬墓と分けています」
木がなくても樹木葬墓と呼ぶ
樹木葬墓はもともと明確な定義がなく、いいイメージだけが先行して広がり、人気を高めていった。そのため、拡大解釈されて、さまざまなスタイルの樹木葬墓が誕生した。
「樹木葬墓で決まっているのは、法律上許可を得た墓地に遺骨を納骨するということだけ。実際に訪れると、“えっ? これが樹木葬? 木がどこにもない”なんてことは多々あります。ですから必ず現地に見学へ行くことをおすすめします」(吉川さん)
東京都在住の会社員Kさん(56才)も、写真を見て樹木葬墓に憧れ、実際に見学に行ったら、イメージと違っていたと残念そうに語ってくれた。
「桜の大木の下に埋めてもらえると思って見学に行ったのですが、実際は芝生の広場に表札のような墓標が並べられているだけでした。桜は園内のほかの場所にあるだけ……。ほかにも何軒か見に行きましたが、都内の場合どこも似たような感じでしたね」(Kさん)