新型コロナウイルス感染拡大の予防策として重視されている「マスクの着用」。しかし、夏場はマスク着用による熱中症にも気を付ける必要がある。厚生労働省は高温多湿の環境下でのマスク着用に対して、熱中症リスクが高くなることを指摘。熱中症予防のために、人と十分な距離を取れる屋外ではマスクを外すことを勧めている。そうしたなか、「寝る時以外マスクは絶対に外せない」という人もいるようだ。いったいなぜ、そこまでマスクを着用し続けるのか。フリーライターの吉田みく氏が、都内在住の30代女性に話を聞いた。
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都内在住の自営業、飯島文香さん(仮名・34歳)は、熱中症が気になる夏場でもマスクを絶対に外せない理由を話してくれた。現在は、夫と3歳と1歳の息子の4人暮らしである。
「コロナ禍の夏は今年で2回目。マスクの中は蒸れるし、暑苦しい。周囲に人がいないところではマスクを外すなど調節できたらいいのですが、もしその現場を親族や地域の人に見られたらと思うと……、怖くてできません」(飯島さん、以下同)
就寝中以外は日本製の不織布マスクを着用している飯島さん。マスク会食も苦ではないそうだ。家族のみが出入りする自宅や自家用車の中でもマスクは欠かさない。友人からは「たまにはマスクを外したら?」や、「コロナも怖いけど、熱中症も危険だよ」などとアドバイスをされることも多いそうだ。しかし、飯島さんは愛想笑いでその場をかわすという。
飯島さんの話からは、「親族の目が……」「万が一、私がコロナに感染したら……」といったフレーズが何度も出てきた。話を聞くと、飯島さんの実家は地元で100年以上続く酒屋を経営しており、他にも不動産経営なども手掛ける実業家。実父は地元で名の知られた存在だという。そういった経緯もあり、周囲に迷惑をかけるような行動をしないよう、幼少期からきつく言われて育ってきたそうだ。
「実家は徒歩3分の距離で、ほぼ毎日顔を合わせます。この前、3歳の息子が隣町の公園へ遊びに行った話をうっかりしてしまい、父親に大激怒されました。『こんな時期に信じられない、今は自粛生活だろ!』と、怒鳴られ、徐々に話は大きくなり、挙げ句は私の人格否定まで……。本当はそんな束縛から自由になりたいのですが、いずれ家業を継ぐ立場にある以上、親子関係を断つことはできません」