相続税対策の“王道”のひとつが、生きているうちに財産を子供や孫に渡していく「生前贈与」だ。年間110万円までの贈与であれば、税金はかからない。この“非課税枠”を活用して、相続時に課税される財産を圧縮していくのだ。
元建設会社オーナーの78歳男性は、この方法で対策を進めていたという。
「相続税をたくさん払うのは馬鹿馬鹿しい。だから、子供と孫の計5人に毎年、非課税枠(基礎控除)を5万円だけオーバーする115万円を贈与しています。
それぞれ毎年5000円の贈与税を払ってもらい、その記録を残すやり方です。知り合いの税理士にアドバイスを受けて10年ほど前からやっていて、孫が生まれるたびに頭数に入れてきた。自分が死んだら、その3年前までに贈与した分は相続税の課税対象になってしまうと聞いたので、早めにコツコツと進めてきました」
別掲の図は、この相続税対策を簡略化して図示したものだが、年間110万円の贈与税の非課税枠を使って少しずつ資産を圧縮していくと、それが積み重なることで相続税の節税につながる。
実際には、「親が子供名義の通帳を管理して、そこに毎年同じ時期に一定額を振り込んでいたところ、亡くなった後の税務調査で指摘を受けて結局、相続税を払うことになった」(69歳の元会社役員)といったトラブルもあり、やり方に注意が必要だが、専門家の助けを借りれば、着実に進められる対策だった。
ところが、この方法が近い将来に使えなくなると見られている。
「今後、年間110万円までの生前贈与が非課税という仕組みがなくなると聞きました。税理士にも相談して、別の対策を考えないと……」(前出・78歳男性)
贈与したお金にも相続税が
相続税はいまや、「お金持ちだけにかかる税金」ではない。
相続・贈与に詳しい山本宏税理士事務所の山本宏氏は「2015年から相続税の基礎控除が大幅に引き下げられたことで、かなり“身近な問題”となりました」と解説する。
妻1人、子供2人が法定相続人の場合であれば、相続財産が8000万円(5000万円+1000万円×法定相続人3人)までなら相続税がゼロで済んでいたのが、2015年以降は4800万円(3000万円+600万円×同3人)よりも相続財産が多ければ相続税がかかることになったのだ。これにより、相続税の課税対象となる人は倍増した。
「地価が高い大都市圏に持ち家がある人であれば、相続税がかかるケースが多くなりました。都内に戸建てを持ち、ある程度大きな企業に勤めて退職金をもらったような人はおおよそ課税対象となる。新たに相続税対策を考え始めた人たちには、年間110万円までの非課税贈与を使って、コツコツと対策しているケースが多い」(山本税理士)