そうした時期に中立的な制度を目指すうえで念頭にあるのは、格差の是正だと西田氏は言う。
「日本の今の制度では、相続税より贈与税のほうが(基礎控除を超えた場合の)税率が高い。資産が少ない人にとっては贈与がやりにくい。逆に資産が多い人にとっては、相続税をたくさん払うよりは、毎年少しずつ贈与したほうが有利な仕組みになってしまっている。格差を固定化する制度になっている側面があるのです」
この年末までの税調の議論と来年度の税制改正大綱の内容を受け、2022年3月までに相続税法の改正案が成立すれば、2022年度から施行されると考えるのが一般的だ。
西田氏は新しいルールのスタート時期については「改正法が成立しても周知期間は必要なので、施行がいつになるかは別の議論になる。ただ、相続税と贈与税をどう一体化していくかは、今年か来年には結論を出さないといけないでしょう」とした。
生前贈与を巡る激変は、すぐそこに迫っている。
駆け込み贈与で大失敗も
節税につながる制度で廃止が囁かれるのは、暦年贈与だけではない。
「現在は、目的を限定した子や孫への一括贈与が非課税になる特例が設けられています。『教育資金(最大1500万円、2023年3月末まで)』『結婚・子育て資金(最大1000万円、2023年3月末まで)』『住宅取得等資金(最大1500万円、2021年末まで)』の3種類ですが、国の方針としては、期限を迎えた後には廃止・縮小へと向かうとみられています」(前出・木下税理士)
制度変更が現実味を帯びてきたことから、メディアでは今年のうちに「駆け込み贈与」をしたほうがいいとする記事も少なくない。
ただし、前出の山本税理士は「まずはどのような制度変更になるのかを見定めたほうがいい」と注意を促す。
「どういう制度に変わるかは、複数の可能性があります。まず、現在は被相続人が亡くなって相続が発生すると、その3年以内の贈与は相続財産として扱われますが、この期間を長くすることが考えられる。ドイツでは10年、フランスでは15年遡って贈与分を相続財産としていますから、それに倣うという考え方です。
一方、贈与税の基礎控除を現行の110万円から、2001年までの水準である60万円に縮小する可能性もある。どういうルール変更になるかに加え、それぞれの資産額、内容によっても対応は変わる。一括贈与にしても同様で、慌ててたくさん贈与してしまうと、後になって手元の財産が足りなくなるリスクもあります」