ふだんは安全運転のドライバーも、ちょっとしたミスで交通事故を起こすことがある。それで全財産を失ったり、刑務所に放り込まれるのでは、運転するひとは誰もいなくなってしまう。そこで自動車保険に加入して、飲酒運転など明らかな過失があるものを除けば、本人の負担を最小限にして保険で解決するようにしている。
ところが結婚では、子どもができてから離婚すると、父親は責任を問われることが(ほとんど)なく、母親だけが社会の最底辺に突き落とされる「自己責任」にされてしまう。少子化で大騒ぎしている日本社会は、「子どもを産むな」という強烈なメッセージを送っているのだ。──ようやく日本でも、子育てや教育に一体的に取り組む「子ども庁」を創設しようとしているが、これで母子家庭の貧困がどの程度改善するかはわからない。
「積極的雇用政策」は誰に有効なのか
労働市場から排除されてしまったひとたちの雇用や賃金の増加を図る政策が「積極的雇用政策」で、「公的な職業紹介、職業訓練、補助金による雇用促進、公共部門による直接雇用」などが含まれる。
一般的には、積極的雇用政策は失業保険給付と組み合わされている。イギリスのブレア政権が導入した政策では、18~24歳の失業者は、失業保険給付開始から6カ月以内に「若者のためのニューディール(New Deal for Young People)」というプログラムへの参加を義務づけられ、拒否すると失業保険給付が停止された。
「第一段階」は担当アドバイザーの下で、必要なら簡単な職業訓練を受け、求職活動を続ける。プログラム開始から4カ月以内に就職できない場合は「第二段階」に進み、「全日制の教育・訓練」「雇用促進補助金付きの雇用(週1日の職業訓練付き)」「6カ月のボランティアの仕事(同)」「6カ月の環境タスクフォースでの仕事(同)」のいずれかを選択する。それでも就職できない場合は「最終段階」に進み、アドバイザーからさらなる支援を受けることになる。──北欧やオランダなどでも、失業保険給付は同様の就労プログラムとセットになっている。
「福祉から雇用へ」を掲げる積極的雇用政策は、どの程度効果があったのか。OECD諸国の事例を対象とした2001年のレビューでは、以下の4つのことがわかった(*参考:阿部彩、國枝繁樹、鈴木亘、林正義『生活保護の経済分析』東京大学出版会)。
【1】職業訓練は、職場復帰を図る女性に有効であり、低学歴の男性や高齢の労働者には有効でない。
【2】政府部門による直接雇用は長期的にはあまり有効でない。民間の雇用者に対する雇用補助は、長期失業者や職場復帰を図る女性には有効だった。
【3】若年向けの雇用政策(雇用補助金、職業訓練、雇用機会創出)は一般的に有効ではない。
【4】公的職業紹介は、ほとんどの失業者、とくに女性に対して有効だった。