ところが、気がつけば少子化の影響で、無計画に建設されたマンションの多くは誰も住んでいない「鬼城」になっている。欲望の赴くままに突っ走ってきた人々にブレーキがかかり始めたのである。その象徴が「寝そべり族」なのだ。
金持ちになった親に育てられた一人っ子たちは両親の祖父母も加えた“6ポケット”で甘やかされ、「小皇帝」と呼ばれてきた。しかし、経済成長に伴い激烈な学歴社会・競争社会・格差社会になったため、その中で落ちこぼれた若者や疲弊した若者が「寝そべり族」になって「寝ていれば、転ぶこともない」などという戯れ歌を口にしているのだ。
また、“6ポケット”は裏を返せば、将来的に1人で両親の支援や世話、もしかすると祖父母の介護もしなければならなくなるということだ。今さら「三人っ子政策」になっても、そのような状況で結婚・出産・子育てをするのは難しいし、今はしゃかりきに働かなくても食べてはいけるから、今後はさらに「寝そべり族」が増殖するのではないか。
少子高齢化と「寝そべり族」の増加は、今後の中国経済にとって大きな足枷になるかもしれない。その先行指標は、いち早く低欲望社会になった日本だ。日本は規制撤廃を断行できず、シリコンバレーや深センのようなメガリージョンもないため、じわじわと衰えつつある。
中国が日本の轍を踏まないためには今のメガリージョンをさらに磨き続けるしかないが、巨大化しすぎて政府の統制下に収まりきらなくなってきたアリババやテンセントなど大手IT企業への規制強化を始めたことで風向きが変わりつつある。大々的な出産奨励策ができないのも、それに伴う少数民族の人口急増を避けたいからだ。しばらくは中国の人口動態統計を含めた国内情勢の動向から目が離せない状態が続くだろう。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2021~22』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2021年9月10日号