相続税を払いたくない──そう考えて対策を練る家族は多い。相続財産が「基礎控除(3000万円+法定相続人の数×600万円)」の範囲内なら相続税はかからないので、財産を圧縮しようとするわけだが、失敗も多い。
相続財産を圧縮するために、孫に生前贈与したい。ただ、孫はまだ中学生だから大金を渡すわけにはいかない。そう考えた祖父は、贈与の非課税枠ギリギリとなる110万円を孫名義の口座に数年にわたって振り込み、通帳を自分で管理していた。
ところが祖父の死後、その口座は「名義預金」だとして、相続税が課される対象に──。相続専門の税理士法人レディング代表の木下勇人税理士が解説する。
「こうした失敗は昔から多くあります。税務調査では印影が取られますが、子供や孫の通帳なのに親や祖父母の銀行印を使っていると、まず生前贈与とは認められません。贈与を受けた側が自由にお金を使える状態だったかどうかで、税務署の判断は変わります。
逆に言えば、贈与された側が自由に使える状況ならOK。インターネット上では、毎年決まった時期に同じ額を振り込んでいると認められないといった情報が流れていますが、時期について税務署は重要視していないと思います」
年110万円までの非課税枠がある「暦年贈与」はメジャーな相続税対策だが、与党税制調査会などで見直しが議論されている。そのため、「今年のうちに駆け込み贈与を!」と煽るメディアもあるが、木下氏は「それが相続税対策の失敗となるリスクも」と指摘する。
「国が議論を進めている以上、年間110万円の非課税枠がなくなる方向なのは間違いないでしょう。ただ、改正内容次第では“駆け込み贈与”も意味がなくなる。
現在は被相続人が亡くなる前、3年以内の贈与は相続財産として扱われますが、これが『亡くなる前、15年以内の贈与は相続財産』といった改正になる可能性がある。
そうなると、今年のうちに駆け込み贈与をしても、たとえば10年後に親が亡くなれば、贈与したお金は相続財産として扱われ、対策としては無意味になる」
※週刊ポスト2021年9月10日号