すべての弁護士が所属する「弁護士会」は、国家権力から独立した「自治」が尊重されることで、かえって閉鎖的な“弁護士ムラ”を作り上げている。この夏、弁護士会から厳しい処分を受けた若き弁護士が反発の声を上げ、波紋を広げている。「正義の味方の団体」の内部で、いったい何が起きているのか。ジャーナリストの伊藤博敏氏がレポートする。
* * *
「私は、本日、汚名をそそぐべく、人生を懸ける覚悟でやってきました」
ずらりと15人並んだ弁護士や裁判官らの前で、男性は声を震わせてそう宣言した。後ろには、メディアを含む20人の傍聴人が控え、固唾をのんで、緊迫したやり取りを見守っていた──。まるで裁判所で行われる刑事裁判のワンシーンのように見える。だが、ここは日本弁護士連合会(以下、日弁連)の事務局が入る弁護士会館(東京・霞が関)の一室だ。
8月10日午後1時、日弁連の審査委員会。その冒頭で「汚名をそそぐ」と語ったのは、ベリーベスト法律事務所(以下、ベリーベスト)の元代表である酒井将弁護士(44才)だった。酒井氏は日本最大級の弁護士と法律のポータルサイト「弁護士ドットコム」の共同創業者で、弁護士界の革命児として知られている。
なぜその酒井氏が、同業者である弁護士(審査委員)に対して、「人生を懸けて」意見を表明しなければならなかったのか。
弁護士は「弁護士会」に所属しないと弁護士としての活動ができない。北は札幌弁護士会や釧路弁護士会、南は沖縄弁護士会など、地域ごとに弁護士会がある。一般にはあまり知られていないが、弁護士会には国家権力から独立した「自治」が尊重されている。つまり、所属する弁護士が会則違反などの問題を起こしたら、弁護士会が懲戒処分(戒告や業務停止、退会命令など)を出せるのだ。
一般的な業種、たとえば飲食業ならば食品衛生法や風営法など、建設業ならば建設業法などに違反すると、国や自治体から営業停止などの行政処分を受ける。だが、弁護士だけは「法律の専門家だから」という理由で、行政手続きの適用から除外され、弁護士会という“自治組織”のなかで処分が行われるのである。
酒井氏やベリーベストなどは昨年3月、所属する東京弁護士会から「業務停止6か月」という処分を受けた。これは弁護士にとっては“死刑判決”に等しい。
「(ベリーベストには)以前は140人いた弁護士が、いまは3人しかいない。銀行取引は断られ、新規口座も開設できない」
酒井氏は審査委員会でこう訴えた。なぜ、かくも重い懲戒処分が下されたのか。
《サラ金の借金がある人は、いますぐお電話を!》
《払いすぎた利息の『過払い金』が戻ってきます!》
こんなCMを、テレビやラジオで聞いたことがある人は多いだろう。これが懲戒事件の火種だった。