ビジネス

「弁護士会」を揺るがす新旧勢力の内部対立 過払い金返還案件が火種に

 弁護士法第一条第一項は、弁護士の使命を「社会正義の実現」と定める。弁護士業界のなかには「困った人を助けるのが弁護士の仕事。カネを稼ぐためにテレビCMで“客”を集めるなんて、もってのほか」という雰囲気も根強い。

 だが、実際に“大量広告戦略”をとった新興勢力のベリーベストは、設立10年で全国49か所に事務所を出し、280名の弁護士を抱えるようになったのだから、業界は震撼した。日弁連の審査委員会において酒井氏の代理人を務めた、前参議院議員の丸山和也弁護士はこう説明する。

「懲戒処分の背景には、『大量広告で大量に仕事を取り、ボロ儲けするなんて許せない』という旧世代の弁護士から新世代への感情的反発がある。何か失点があれば潰してやろうと、虎視眈々と狙っていた」

 大量に広告を打つ司法書士法人と弁護士法人との連携。それもまた、「弁護士会中枢の旧世代には面白くない」と、丸山氏が続ける。

「弁護士会というのは、左翼、人権派の勢力が強いところです。彼らには、サラ金(消費者金融)に追い込まれた多重債務者を救済してきたという自負がある。政治に働きかけて貸金業法を改正し、上限金利を引き下げて、グレーゾーン金利(利息制限法の上限20%と出資法の上限29%の間の金利)を認めず、その分を過払い金として返還させるという、債務者を救済する仕組みを作ってきました。そこに、政治信条のないノンポリの若い弁護士連中が登場して、広告でゴッソリと客を持っていったので、苦労して築いた地盤を奪われたように感じているのです」

依頼者のためになると信じています

 かつて都心も郊外も、駅近辺に必ずあったのが武富士、プロミス、アコムなどの消費者金融業者。駅前でティッシュを配り、派手にCMを流し、長者番付の上位には消費者金融オーナーが名を連ねた。

 2006年1月、最高裁がグレーゾーン金利を認めないという判決を出すと状況は一変する。同年12月13日、上限金利を20%に引き下げる改正貸金業法が成立した。以降、消費者金融は次々に撤退。2006年末に約1万2000社だった消費者金融は、いまや約1000社に激減。武富士など大手は破たんするか銀行傘下に入り、小口無担保金融のシステムは失われた。

 過払い金返還を推し進めた弁護士の新興勢力は、消費者金融崩壊の一翼を担った。しかし「社会正義にはほど遠い」という指摘がある。『弁護士業界大研究』の著作があるジャーナリストの伊藤歩氏が言う。

「相談者のハードルを下げ、弁護士を身近な存在にしたことは功績です。ただ、商業主義に走りすぎている点は批判されてしかるべきでしょう。新興勢力は、数をこなすために、依頼者の収入もろくに聞かず、将来の生活再建も考慮せず、処理を急ぎ、カネを取り戻すだけで、生活再建につながる指導まではしません。

 たしかに多重債務者になるのは本人が悪い。でも、そういう人たちなんです。過払い金を取り戻しても“一時しのぎ”にしかならず、また親族や友人を頼り、おかしな借金に手を染め、さらに苦境に陥る。面談をし、本人の状況を確認し、ケアするのが弁護士の使命でしょう。大量にさばくだけのカネ儲け主義は、消費者金融を潰し、過払い金請求バブルが弾けて終わってしまいました」

 酒井氏はこう反論する。

「依頼者の利益を最大化するのが自分たちの役割で、生活習慣まで、あれこれと説教するのは本質的問題ではありません」

関連キーワード

注目TOPIC

当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。