三木のり平のアニメCMで知られる海苔佃煮『ごはんですよ!』をはじめ、『穂先メンマやわらぎ』や『辛そうで辛くない少し辛いラー油』など、多くのロングセラー商品を持つ桃屋。創業101年を迎えた同社は、伝統を守り続けることで独自のポジションを築き、2021年9月決算では8期連続の増収増益となる見込みだ。新商品が持て囃される“飽きっぽい時代”ながら、「伝統」を商品化することにこだわる理由は何か。小出雄二社長に訊いた。
──平成元年(1989年)当時は何をされていましたか。
小出:私の会社員人生は桃屋ではなく、1985年に入社した味の素で始まりました。1989年当時は営業を担当しており、スーパーの目立つ場所に味の素の商品を置いてもらうための交渉が主な役割で、実際に店舗で陳列もしていました。
いかにお客様の目に留めていただくかは、食料品の販売においてとても重要だと学びました。結婚したのもその頃でした(夫人は桃屋創業者の孫)。
その後、食品事業部でプロダクトマネジャーになりました。自分が担当する商品は、原料調達から開発、生産、販売に至るまですべて一元管理し、損益計算書も自分で作成する。担当商品の「社長」のつもりでやっていました。この時に経営者としての基本を身につけることができたと思っています。
──その後は海外M&Aなどを担当し、上海などでの駐在も経験された。グローバル企業である味の素でキャリアを積んでいた印象を受けますが、2011年に桃屋の社長に転じました。
小出:50歳を目前にして、内村鑑三さんの『後世への最大遺物』という本を読み、自分なら人生の最後に何を遺せるかなと自問自答していました。
ちょうどその頃、名誉会長(義父の小出孝之氏)から「社長を継いでほしい」という要請をいただいた。これからの世代に何を繋いでいくべきかということを考え、桃屋の素晴らしい商品価値を後世に遺していく使命感や覚悟を持つに至りました。
──社長就任後、何を変えていったのですか。
小出:社内や取引先にヒアリングすると、「瓶詰商品はもう古い」とか「もっと新しいジャンルや新商品を出すべき」といった声が多かったんです。
──『ごはんですよ!』や『味付菜』など、商品の多くは昭和に販売されたものですから、そういう意見が出るのは当然かもしれません。
小出:でも、私は瓶詰こそ食品を美味しくする容器だと思っていました。ヨーロッパのスーパーを覗くと、ワインをはじめほとんどの飲料・食料品は瓶詰めです。瓶は容器の臭いがつかないし、空気も通さない。商品の中身が見えて安心ですし、リサイクルの観点からも環境に優しい。
──変える必要がない、と。
小出:私も店頭で商品を販売してみると、主婦の方から「桃屋さん? 子供の頃よく食べたわ。懐かしい」という反応が返ってくるんです。大事なのは、むやみに新商品を出すのではなく、桃屋の商品価値の“再伝達”だと考えました。そこができれば絶対、桃屋は売り上げを伸ばしていけると確信したのです。