「親ガチャ」──。生まれてくる子供は親を選ぶことができないことを指して、運要素の強いガチャガチャ(カプセル式自動販売機。コインを入れてレバーを回すと商品が出てくる。自分では商品を選べない)にたとえた諦観をあらわす言葉として、にわかに注目を集めている。「親ガチャ失敗」と言うときは、「親のせいで自分の人生が希望通りにならない」という意味のことを指すのだろう。そう主張する20代、30代の男女に、フリーライターの吉田みく氏が話を聞いた。
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ネットで話題になった「親ガチャ」問題。「自分がまさにそう」といった賛同から、「自立できていない若者の甘えだ」といった批判まで、ネット上でも賛否両論が分かれている。今回、「親ガチャに失敗した」と語る2人の話を聞くことができた。
都内在住の公務員男性、和樹さん(仮名・24歳)は、「親ガチャに失敗してお金で苦労した」と話す。5人家族で両親と2人の弟がいるが、現在は実家を出て一人暮らしをしているという。
「私の両親は夢追い人タイプ。バンド活動を優先できるよう、日雇いバイトなどで生計を立てていました。親戚には金銭面で迷惑をかけていたことも多かったようで、子供である私と弟は肩身の狭い思いをしながら生活していました」(和樹さん)
金銭的に余裕のない両親は、学習に必要な文房具すら買うのを渋ったそうだ。そのため、同級生からからかわれたこともあったという。時には両親を強く責めたこともあったものの、「そんなに怒らないでよー、お金ないんだもん」と、ヘラヘラ笑って返されるだけだった、と和樹さんは当時の状況を振り返る。
「両親のような人生を送りたくないと思っていたので、安定した職に就きたい気持ちが強かったです。奨学金を借りて大学へ進学し、夢であった公務員になることができました。現在は決して裕福というわけではありませんが、自由にお金を使えることを実感しています」(同前)
希望する道に進めた和樹さんだが、今も気掛かりなことがあるという。
「両親は動画配信活動に力を入れているようで、バイトに行く時間がないそうです。そのため、定期的に生活費を援助してほしいと連絡が入ります。特に複雑な気持ちになるのは、いちばん下の弟をダシにしてくる時です。『中学の制服代、貸してくれない?』なんて言われたら、援助しないわけにはいきません。本音としては連絡先をブロックして距離を取りたいですが……、弟が成人するまでは辛抱して乗り切りたいと思います」(同前)