しかし、虐待を受けたと思われる児童を発見した者には、法令に基づいて通告する義務があるのですから、国民の義務を果たした通告により、民事刑事を問わず責任を問われることはありません。
なお、匿名で通告する方法もありますが、通告を受けた児童相談所等では、状況把握のために匿名をやめるように説得すると思います。児童相談所の職員は地方公務員で、地方公務員法の定めにより守秘義務があります。
さらに、児童虐待防止法では守秘義務の対象について、「通告をした者を特定させるものを漏らしてはならない」と具体的に定めています。通告した事実やその内容は、職務上必要な範囲にしか伝わりません。したがって、隣人にあなたが通告したことはわからないはずです。心配しなくてもよいと思います。
とはいえ、間違って通告して隣人に不快な思いをさせるのも後味の悪いことです。隣家の様子が、通常のしつけの範囲を超え、虐待があるのではと疑われるものの自信がない場合には、怒鳴り声や泣き声を録音し日時を記録して証拠に残し、信頼できる友人などにも聞いてもらい、判断の正確性を確認してはいかがですか。なお、通告先は警察ではなく児童相談所や福祉事務所となります。
【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。
※女性セブン2021年10月21日号