真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

岸田政権への海外投資家の失望 総選挙の「株高アノマリー」途絶える可能性も

岸田氏が掲げる「令和版所得倍増計画」には成長の“旗”が見当たらないとの指摘も(写真/時事通信フォト)

岸田氏が掲げる「令和版所得倍増計画」には成長の“旗”が見当たらないとの指摘も(写真/時事通信フォト)

 人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第28回は、岸田政権が誕生したにもかかわらず、株価が上がって来ない理由について分析する。

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 10月4日、岸田文雄自民党総裁が第100代首相に就任した。菅義偉前首相の退陣表明を受けて、日経平均株価は首相交代の期待感から3万円台を回復。しかし、岸田氏が自民党の新総裁に選出された9月29日に3万円を割り込むと、その後も日経平均は下落基調が続いた。一時的に回復基調となることもあるが、新首相誕生の「ご祝儀相場」とはほど遠い状況である。

 なぜ株価は下がってしまったのか。東京証券取引所の売買代金の約7割を占め、相場の主役とされる海外投資家の動向を振り返ると分かりやすい。

 世界の株式市場の中で日本株の出遅れ感が目立つなか、9月に入って菅前首相が退陣表明したことで「ポスト菅」への期待が高まり、海外投資家は一気に日本株の買い戻しに転じた。新型コロナウイルスの感染者が減少傾向にあったことに加え、衆院選が予定されていたことも株価上昇を支えた。1990年以降、衆院選期間中は「日本株は必ず上昇する」というアノマリー(法則や理論で合理的な説明ができない現象)が続いてきたことも大きな買い材料となっていた。

 首相が交代して総選挙に突入すれば株価は上がる――海外勢をはじめとする主要な投資家の思い込みは高まり、行動経済学でいう「コントロールイリュージョン」に浸っていたのだ。

 期待ばかりが先行するなか、国民的人気の高い河野太郎氏の優勢が伝えられてきたが、国内では総裁選の開票日が近づくにつれ、岸田氏優勢という見方が徐々に強まっていった。ただ、海外勢は「変化」を好み、そこに投資チャンスを見出す傾向が強い。岸田氏よりも“改革派”のイメージが強い河野氏に期待する機運は海外投資家の間で否応なしに高まっていた。

 しかし、期待先行の株価上昇はいつまでも続くものではない。情勢が徐々に伝わるなか、それまで買い越してきた海外投資家は9月第3週以降、売り越しに転じた。そこに、岸田氏が新総裁に選出されたのを受けて、米欧の主要メディアが「変化ではなく、安定性に未来を託した」などと書き立て、日本のトップが代わり映えしないことを論じたため、失望した海外投資家の売りが膨らんでいったのである。

 行動経済学の視点で見ると、それまで市場をコントロール出来ると思い込んでいたのが一転、「コントロールの欠如」に陥ってしまったのだ。

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