優秀なブレーンが見当たらない岸田政権
市場が「コントロールの欠如」に陥るなか、株価は下落基調が続く。それでも、岸田政権がこれから先、何を国の中心に据えるかという「産業政策」が打ち出せれば、株価の展開は違ってくるかもしれない。
岸田派の源流である「宏池会」の創設者、池田勇人元首相は、1960年に「所得倍増計画」を打ち出し、高度経済成長につなげていった。岸田氏も「令和版所得倍増計画」を掲げているが、あの時と大きく異なるのは、池田政権には下村治氏という極めて優秀な経済学者がブレーンとして支えていたこと。そうした人物は、岸田政権には見当たらない。米中をはじめとした世界の主要国では、「AI(人工知能)」「半導体」「EV(電気自動車)」「脱炭素」といった今後の成長を牽引する産業政策を明確にしているが、岸田氏が打ち出そうとしている政策からはそのような具体的な“旗”が見えてこないのだ。
岸田氏は「成長と分配の好循環」を掲げるが、国民に広く分配するためには成長が不可欠だ。限られたコップの中の水をかき回すだけでは分配は叶わず、コップを大きくする、あるいは違うコップを用意しなければならない。果たして国を成長させる「産業政策」が打ち出せるのか。有力なブレーンも見当たらないなかでは、それも厳しいように思えてならない。
中国では不動産大手の中国恒大集団の債務問題が火を噴くなど、相場を取り巻く外部要因も悪化している。そう考えていくと、当面の株価は上値の重い展開が続き、場合によっては「衆院選で株価は上昇」というアノマリーも途絶える可能性が出てくるかもしれない。そうならないためにも、新政権は明確なビジョンを示し、実現することが求められている。
【プロフィール】
真壁昭夫(まかべ・あきお)/1953年神奈川県生まれ。法政大学大学院教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリルリンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。「行動経済学会」創設メンバー。脳科学者・中野信子氏との共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』など著書多数。最新刊は『ゲームチェンジ日本』(MdN新書)。