リーマンショック後の2009年3月期に7873億円もの巨額赤字を出しながら、V字回復を果たした日立製作所。2021年3月期に過去最高の5016億円の純利益を叩き出し、2022年3月期も純利益5500億円とさらなる増益を見込む。
グループの総従業員数は35万人。取引先企業まで含めた「日立経済圏」はいまや220兆円規模にのぼるとされ、国内ではトヨタ自動車に匹敵する“最強グループ”になっている。
日立では技術を重んじる社風から、「日立返仁会」なる組織が作られている。日立創立者の1人、馬場粂夫博士の「高度な発明は(独創的な)変人以外は期待し難い」の持論にちなんだ名称で、現在も博士号を持つ現役、OB技術者が多数在籍。研鑽を積んでいるという。
何より、今年6月に就任した小島啓二・社長兼COO(最高執行責任者)のトップ人事が「技術屋を大事にする同社のメッセージ」と真壁昭夫・法政大学大学院教授は見る。
「小島氏は研究所出身でシステムに精通する優秀な技術者。日立が今後の主力事業に据える『Lumada(ルマーダ)』を立ち上げた責任者であり、これからの同社の戦略を実行に移すには打ってつけの人物といえます」
「ルマーダ」は、あらゆるモノをネットに繋ぐIoT環境を簡単に構築できるサービスで、日立の成長のエンジンと位置づけられている。『経済界』編集局長の関慎夫氏が解説する。
「『ルマーダ』は工場全体の機械を一体化し結びつけるシステムで、生産技術やITなど、これまで日立が手がけた事業を統合したようなサービス。工場の生産性を向上させる切り札として、国内外の数多くの企業が導入しています」
さらに、「脱炭素」に向けた取り組みでも収益を拡大。再生可能エネルギーの拡大で需要が高まる送配電システムでは、エジプトとサウジアラビアをつなぐ1000億円規模のシステムを受注。スペインでは高速鉄道の保守点検で約980億円を受注するなど、大型受注が相次いでいる。
そんな日立に課題は見当たらないのか。