だがその時、台所のシンクの上から明かりが漏れてきて、そこに小窓があることに気づいたんや。
咄嗟に窓の格子を蹴破り、間一髪で火の海から逃げることができたが、あと1分遅かったら確実に死んどった。窓から這い出る際、折れた格子がワシのハーフコートに引っかかった時は、ホンマに生きた心地がせんかったで(苦笑)。
人質立て籠もり事件は全国的に数年に1度しか起きないが、ワシは立て続けに2度も遭遇した。まぁ、それだけ警察官が危険と隣り合わせということや。刑事だけでなく、交番のお巡りさんが急襲される事件も珍しくない。
おかげで今もワシは現役時代のクセが抜けず、電車に乗る時も「ここで通り魔が現われたら、乗客をどう助けるか」などと考えてしまう。同じような元刑事も多いかもしれんな。ほなっ、また!
【プロフィール】
秋山博康(あきやま・ひろやす)/1960年7月、徳島県生まれ。1979年、徳島県警察採用。交番勤務、機動隊を経て刑事畑を歩む。県警本部長賞、警視総監賞ほか受賞多数。退職後は犯罪コメンテーターとして活動。YouTube「リーゼント刑事・秋山博康チャンネル」が話題。
※週刊ポスト2021年11月19・26日号