徳島県警を退職後は犯罪コメンテーターとして活躍する「リーゼント刑事」こと秋山博康氏の連載「刑事バカ一代」。秋山氏が“今では考えられない取り調べの方法”について綴る。
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おはようさん、リーゼント刑事こと秋山博康です。
近年の警察はITやAIを用いたハイテク捜査が盛んだが、ワシが現役の頃はアナログな取り調べがいちばん好きやった。狭い取調室で被疑者と向かい合い“ウタわせる”(警察用語で自白させる)ことが刑事の醍醐味でもある。
徳島県警捜査一課の強行犯主任時代、スナックで酒を飲んでいた男が酔客に絡まれ相手を刺し殺す事件があった。「自慢のパンチパーマ」をしつこく触られ激昂したという。この男は逮捕後も強硬な態度を崩さなかったが、取調室でワシを見て「刑事さんのリーゼントはキレイやね」と言いよった。ワシも「あんたのパンチもよう似おうとるわ」と返し、“リーゼント&パンチ談義”で盛り上がったんや。おかげで男は心を開き「人の命は何より尊い」というワシの言葉を聞き入れ、全面自供となった。
捜査一課の係長の時は、路上強盗をした20歳そこそこの被疑者がおった。ものすごく寡黙な男で、取り調べ中はワシの顔を見ようともしない。ひとつも供述調書を取れないうちに勾留期限が迫り、胃がキリキリと痛くなった。
そんな時、たまたま当時流行していた「Mr.マリック」の手品番組を見たんや。「これや!」と閃いたワシは、手品が趣味の先輩警官に連絡し、徹夜で教えてもらった。明くる日、取調室に入って、マッチ棒を空中で動かす覚えたての手品を披露したら、頑なに口を開かんかった男がこっちをチラッと見て「秋山さん、うまいっすね」とつぶやいた。ワシは平静を装いながらも内心で「お前の声、初めて聞いたわ」と突っ込んだ。
取り調べの最後に「ワシには全部お見通しやから、ここに何か書け」と男に白紙を渡して外に出た。