しばらくして部屋に戻り、「平仮名で『あきやま』って書いたな」と言い当てると、男は目を丸くして驚いた。間髪入れず、「ワシにはわかるんや……この前の強盗もお前やな」と畳みかけると、観念した男は素直に自供を始めたんや。実は部屋に残った部下に小型無線を仕込み、紙に書いた内容をこっそり聞いとったんやけどな(笑)。
心を開いた被疑者は、必ず自分のやったことを反省する。パンチの男も手品を見せた男もウオンウオン泣くから、ワシは「よう辛抱したな。次の道があるんやで」と抱きしめ一緒に泣いた。刑務所に移送する時には「頑張ってな。病気するなよ」と言って見送った。
今は取り調べの可視化や適正化が進み、取調室で手品や抱擁をするなんて完全にアウトやろうな。ただワシは、相手の心を開いて改心させ、再び罪を犯さないようにすることが刑事の本分だと今も信じとる。ほなっ、また!
【プロフィール】
秋山博康(あきやま・ひろやす)/1960年7月、徳島県生まれ。1979年、徳島県警察採用。交番勤務、機動隊を経て刑事畑を歩む。県警本部長賞、警視総監賞ほか受賞多数。退職後は犯罪コメンテーターとして活動。YouTube「リーゼント刑事・秋山博康チャンネル」が話題。
※週刊ポスト2021年12月3日号