置かれた場所で咲きなさい──これは約10年前にミリオンセラーとなった書籍のタイトルだ。「置かれた場所こそが、あなたのいるべき居場所なのだ」というメッセージは多くの人の心をつかんだが、住む場所によって進学や就職、恋愛や結婚など、大きな差が生じることは必然だ。都会か田舎か、身を置く場所はどちらが良いのだろうか。
都会は出会いの数が多い半面、一人ひとりのつながりは希薄で孤独を生む──都会暮らしを経て田舎のよさを痛感し、Uターンした夫婦がいる。
四万十川の上流にある愛媛県・鬼北町で2014年から農家体験民宿「山あじさい」を営む武田七重さん(65才)は大阪で3年働いた後、23才で愛媛に戻ってきた。
「都会は電車の乗り方も複雑で、道や家が入り組み、暮らしていくことが大変だと感じました。もちろん、助けてくれる人や親切にしてくれる人もいたけれど、田舎の生活が染みついた私にとって、都会の複雑さが上回ってしまいました」(七重さん)
この地で同じくUターンした夫の達也さん(68才)と出会って結婚。七重さんは公務員として働いて定年を迎えてから、両親が暮らしていた実家を改築して「山あじさい」を開業した。路線バスが2時間に1本しかない田舎暮らしだが、このシンプルさが都会よりずっと快適だと笑顔で語る。
「マイカーでどこにでも行けるので交通は不便じゃないし、駐車場もお金がかかりません。年老いて免許を返納してもタクシーチケットで安く移動できますし電車も単線でわかりやすいから、生活においてストレスはまったく感じません」(七重さん)
教育の地域格差も指摘されるが、達也さんは「純粋に環境だけを比べたら田舎の方が勉強がはかどる」と語る。
「確かに子供を私立に入れようとすると、田舎は財力的に厳しいかもしれません。ですが、車で行ける距離に大学、中高一貫校もあり、子供の学力に不安を感じたことはありませんし、特に厳しく勉強することを強要したこともありませんが、大学院まで進学しました。夜遊びできるような娯楽施設がなく、大自然の中で遊べるので、むしろ田舎の方が教育環境がいい面もあると思います」(達也さん)