近年高まりを見せる中国の“愛国ムード”。しかし今、行き過ぎた愛国心から「反日」の機運も高まり、さまざまなところで影響が出ているという。今年11月11日に開催された中国最大のネット通販セール「独身の日」商戦でも、日本企業の苦戦が鮮明となっている。中国の経済、社会情勢に詳しいジャーナリストの高口康太さんがリポートする。
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11月上旬、あるニュースが中国のネットで話題になった。それは、中国・湖南省にある大学、湖南城市学院の李剣(リー・ジエン)教授が、授業中に発した“不適切な発言”により教職を解任され、図書館管理員へと転属されたというもの。問題は、その発言の内容だ。
「(建築文化の向上に)日本人は磨きをかけた」
この一言に、ある学生が猛反発した。「李教授は中国を侮辱している」と大学に訴え、ついには解任に至ったという。
ひどい話に思えるが、実は日本を褒めるのは危険だという話は最近、よく耳にしていた。ある在日中国人インフルエンサーは言う。
「SNSで日本の美しい景色を紹介すると、“そんなもの中国にもある”と噛みつかれたことがありました。日本人は行列でちゃんと並ぶなどマナーの高さを紹介すると、以前は“なるほど中国も学ぶべき”という反応が多かったのですが、最近では“日本人にも割り込みする奴はいる。偏った紹介だ”などと攻撃されることも。日本を褒めすぎないよう気を使っています」
いちいち相手にするのはバカらしいようにも思えるが、放っておくと炎上して問題がどこまでも拡大する恐れがあるという。というのも近年、中国の愛国ムードは高まるばかり。“外国を賛美する売国奴だ”云々と騒がれると、言いがかりをつけてくる輩を説得する労力を考えると、これ以上騒ぎが拡大する前に処罰したほうがラクだという流れになってしまう。李教授もそうして解任されたわけだ。
同様の事例は他にもある。中国の人気俳優・張哲瀚(ジャン・ジャーハン)は今年8月、日本・東京の乃木神社で行われた友人の結婚式に参加していたこと、靖国神社近隣で写真を撮っていたことが問題視されて炎上し、芸能界引退に追い込まれた。
「靖国なら炎上するのは分かりますが、乃木神社まで問題になるとは知りませんでした。こうなると、もう全ての神社が危険に感じますね。在日中国人インフルエンサーだけではなく、アニメの監督や声優など、将来的に中国でビジネスを行う可能性がある日本人も気を付けないと炎上するリスクがあります」(前出・在日中国人インフルエンサー)
他にも、遼寧省大連市で開催された「盛唐・小京都」プロジェクトの炎上も話題となった。京都の街並みを再現した商業施設をオープンしたところ、ネットで「国辱だ」「税金を日本商品の優遇に使っている」などと批判が吹き上がり、無期休業に追いやられてしまった。