紙オムツランキングで大きな異変
愛国ムードの盛り上がりは日本の対中ビジネスにも影響を及ぼし始めている。中国では毎年、11月11日に「独身の日」と呼ばれる中国最大のショッピングセールが開催される。そこで目立ったのが中国企業の躍進だ。動画アプリ「TikTok」を運営するバイトダンスが発表した独身の日商戦の結果によると、人気商品の9割近くが中国企業のものだった。
「国潮」(国産品ブーム)が続く中国では、今年はセールを盛り上げるテレビ特番のスポンサーから外資企業が排除されるなど、例年以上に国産品を盛り上げようとする機運が目立った。
「紙オムツのランキングで、毎年好調だった日本企業が大きく順位を落としていたことに驚きました」
日本企業の中国進出を支援するマーケティング企業の関係者は衝撃を語った。ベビー用品の調査を行う「母嬰業界観察」が発表した「天猫(Tモール)・ダブルイレブン紙オムツ商戦人気ブランドランキング」によると、ユニ・チャームの紙おむつ「ムーニー」は前年2位から5位と順位を下げた。花王の「メリーズ」は現地生産品を中心とした一般のショップと、日本からの輸入中心の越境ECショップの2店舗をアリババで展開しているが、一般のショップは前年6位から4位に順位を上げたものの、越境ECでは前年5位から19位に転落した。
苦しむ日本勢を尻目に3位に入ったのがBC Babycare。2015年に設立されたばかりの新興中国企業だが、急成長を続けている。米国、日本、韓国にも開発チームがあり、国際企業から調達した一流の原材料を使っているという。SNSなどネットを駆使した販売戦略で評価を上げてきた。「赤ちゃんの肌に触れる紙オムツはとにかく品質、安全性が大事。外国の有名ブランドを使いたい」という観念が中国で強かったのも今は昔、紙オムツでも中国企業が躍進しているわけだ。
ここ5年程度で誕生し、ネットマーケティングを主軸にのしあがってきた中国ブランドを「新消費ブランド」と呼ぶ。アパレル、インスタントコーヒー、清涼飲料水、ペット用品など、さまざまな分野で中国ブランドが台頭している。愛国ムードの高まりと中国企業の躍進を受け、日本企業は2021年の独身の日商戦で苦戦を強いられたのだ。
対中マーケティング支援を手がけるアライドアーキテクツの番匠達也・クロスボーダー事業部プレジデントは、「中国市場全体として成長しているとはいえ、中国企業の成長が目覚ましく、日本企業が今までどおりに業績を伸ばすのは容易ではない」と指摘した。メイド・イン・ジャパンの信頼感にあぐらをかくのではなく、さまざまなソーシャルメディアを使って、口コミでの評価をあげ、リピーターを獲得することが重要だという。
つまりは中国流のデジタルマーケティングを駆使しなければ、日本企業の中国市場での勝ち目はないということのようだ。
【プロフィール】
高口康太(たかぐち・こうた)/ジャーナリスト。翻訳家。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国の政治、社会、文化など幅広い分野で取材を行う。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『現代中国経営者列伝』(星海社新書)など。