コロナ禍を経て、自身の健康を見直す人が増加している。特に食に対する健康意識は高まっており、たとえば低糖質のシリアル食品「オートミール」は1時間で1.7億円を売り上げる人気ぶりだ。実際、日本政策金融公庫が今年行った調査によれば、長年低下傾向にあった食品の産地などに対するこだわりもコロナ禍を機に上昇に転じた。
日々何を食べるかは健康を維持するうえで非常に重要な要素の1つ。だが、ひとたび体調を崩したり、不調を感じたりしたときに頼る医療も、大事なファクターとなる。さらにいえば「どんな医師に巡り合うか」で、その後の自分の健康が左右されることもある。湘南鎌倉総合病院・院長代行の小林修三さんが指摘する。
「いい医師と巡り合えるかどうかによって、寿命はもちろん、支払う治療費においても多大な影響を与えることは事実だと思います」
患者からすれば医師たちは病気のプロであり専門家。しかし同じ専門家であっても一人ひとりが持つ技量や知識、人間性はさまざまだ。つまり、同じ病気の治療であっても、どんな医師がどの方法で施すかで、その後に私たち患者が辿る道は大きく変わってしまうのだ。
多くの専門家たちが「医師の腕によって差が出る」と口をそろえたのは、日本人の2人に1人がかかるといわれる、がんの治療だ。大腸や乳房、肺など、がんになる部位やその病状は患者一人ひとりで千差万別だ。したがって、がんへのアプローチも手術や抗がん剤などの化学療法、放射線治療など、さまざまな手段が確立している。選択肢が多いゆえに治療を受ける患者は医師の腕や判断に左右されやすい。
「たとえば乳がんが見つかった場合、そのまま切除手術をせず、先に抗がん剤を使ってがんを小さくしてから切除した方がメスを入れる範囲が小さくて済むこともある。それ以外のがんでも、複数ある抗がん剤のどれを使うかは医師の裁量。最先端の放射線治療である陽子線治療など、先進医療についても患者さんに提案できるだけの知識があるかどうかは、それぞれの医師が勉強熱心かどうかによります」(小林さん)
自由診療の費用は青天井
差が生じるのは治療内容だけではない。医療問題に詳しいジャーナリストの岩澤倫彦さんは金銭面においても大きな乖離が生じると話す。
「日本全国どこでもほぼ同一の治療費で受けられる『標準治療』は、実際の治療実績に基づいた世界でも最高クラスの医療です。にもかかわらず、有効性が証明されていない免疫細胞療法など、自由診療の有用性を説き、高額な治療費を請求しようとする医師が少なからず存在する。しかしながら、自由診療のがん治療が『標準治療』よりも治療成績がいいと証明されたものはひとつもありません」