保険診療の範囲内であれば高額療養費制度が適用され、治療費がかさんだとしても月額の上限が決まっており、一定に抑えられる。だが、自由診療を選択してしまうと、その額は青天井。数百万円から数千万円になるケースもあると岩澤さんは言う。恐ろしいのは、高額な治療費を払ったうえに、助かるはずの命まで失う可能性があることだ。
「早期の乳がんが見つかった女性が『手術を受けたくない』と自由診療のクリニックに行き、“体に優しい”と称する温熱療法と断食を組み合わせた治療を選択した結果、2年後に悪化して亡くなったという不幸なケースがありました。通常、ごく早期の乳がんであれば、手術によって高い確率で根治が可能です。日本のがん治療はグレーゾーンや詐欺に近いことがまかり通っている。医師選びがいかに重要かを理解してほしい」(岩澤さん)
医療ジャーナリストの増田美加さんも声をそろえる。
「値段の高い治療ほど効果を感じるという先入観を持つ人は少なくありませんが、それは誤解です。現時点では、標準治療こそ最高の医療だと認識してください。ただし医学は日進月歩。5年後には別のものに入れ替わることもあるので、固定観念は禁物です」
糖尿病や高血圧をはじめとした生活習慣病も、同じ病院に長期にわたって通う必要があるゆえに医師とのつきあいも必然的に長くなり、健康状態やかかる医療費は左右されやすくなる。医療サービスアドバイザーでコンサルタントの武田哲男さんが明かす。
「医療の世界は技術の発展とともに専門分野がより細分化されてきています。もちろん、それによって細やかな治療が可能になりましたが、半面、専門以外の周辺部分に目が配れない先生が増えています。よく耳にするのは糖尿病を患っている患者さんは合併症で腎臓や心臓が悪くなることが多いが、部分の治療に集中するあまりほかの機能悪化に気がつかず、発見が遅れ悪化してしまうパターンです」
糖尿病の数値だけが改善しても、その陰で合併症が進行していれば元も子もない。