西田のイラン人妻から聞いた、40年近く前のこんな出来事を思い出す。
乳飲み子2人を抱え、大変な日常を送っていた。そんな折、社宅のリビングの電球が切れる。ほんの50メートル先に松下電器の代理店。東芝の代理店までは遠かった。妻は松下電器の代理店で電球を買い、取り付けていた。帰宅した西田がそれを見つけ、妻を叱責する。
「僕たちがどれだけ東芝にお世話になっていると思っているのか? なぜ松下の電球なんだ? 恩を仇で返すようなことは二度としてはいけない。東芝が僕らの恩人なんだ」
これほどまでに東芝への愛も語っていた西田。そこに1ミリも邪心は感じられない。そんな西田を思う時、なんとも言えぬやり切れなさばかりが残ってしまう。(文中敬称略)
※週刊ポスト2021年12月10日号
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