小田急電鉄が、子供運賃を来春から全線一律50円に引き下げると発表したことが、大きな話題を呼んでいる。大幅な値下げに踏み切った同社の業績を心配する声も聞かれるが、実際のところ減収額をカバーできる見込みはあるのか。公表資料をもとに、鉄道ジャーナリストの梅原淳さんが試算した。
* * *
小田急電鉄(以下、小田急)は、6才から12才未満の子供運賃を2022年春から全線一律50円に値下げすることを発表した。現在、小田急の子供IC乗車券の運賃は、最も距離の短い1〜3kmの区間が63円、最も距離の長い82〜83kmの区間(新宿〜小田原間)が445円。最も低い運賃よりも安くなり、最大395円の値下げという思い切った決断に、業界では大きな注目を集めている。値下げの適用を受けられるのは、PASMOやSuicaなどのICカード利用時のみとなる。
小田急によると、子供IC運賃の全線一律50円化は、同社が掲げる「子育て応援ポリシー」に添った施策だという。少子化が進むなか、子育てしやすい環境づくりの一環として導入されたもので、大手私鉄では近年よく見られるものだ。例えば、関東地方の大手私鉄では、東武鉄道や京成電鉄、東急電鉄が高架下の空間を使用して保育園を開設し、待機児童の減少に努めている。子育て中の家族が自社の鉄道の沿線に引っ越してくれば、鉄道の利用も増えるし沿線の活性化につなげようという狙いだ。そうした中でも今回の小田急の発表は、業界に激震を与えたと言って良いだろう。
はたして、子供IC運賃をここまで値下げした場合、小田急の業績に直接的にどのような影響が出るのだろうか。そうした疑問を解き明かすべく、ここでは利用者数と運賃収入とをもとに現状と比較してみたい。使用した統計は、国土交通省が公表している「鉄道統計年報」の最新版となる平成30年度版だ。
これによると、小田急を定期券以外の通常運賃で利用した人の数は1日平均80万7317人、そこから小田急が得た収入は1日平均1億9677万4468円で、利用者1人が乗車した距離の平均は14.9kmだった。小田急に問い合わせたところ、子供運賃で利用した人の数、収入は発表していないという。厳密な試算は出来ないが、ある程度までは推測できる。早速計算してみよう。