値引き分を単純計算すると年間約12億円の減収
まずは前提として、大人、子供とも利用者1人が乗車した距離の平均を14.9kmと考える。小田急の当時の運賃は、ICカード利用時が大人251円、子供125円、駅で乗車券を購入した場合は大人260円、子供130円だ。ICカードの利用が圧倒的に多いと考えて、平均運賃、つまり客単価は大人251円、子供125円とする。
1日の平均利用者数80万7317人全てが大人だとすると、収入は2億263万6567円(80万7317人×251円)となり、実際の収入と比べて586万2099円多くなる。大人と子供の客単価の差額は126円なので、586万2099円を126円で割ると子供の利用者数は4万6524人ということが分かる。80万7317人から4万6524人を引いた76万793人が大人の利用者数だ。
1日の平均利用者数は、大人が76万793人、子供が4万6524人と大きく差があり、割合にすると大人が約94%の一方で、子供はわずか6%に満たない。仮に、平成30年度の利用動向のままで子供IC運賃が全線一律50円となったとすると、小田急の1日の平均収入は1億9328万4768円となり、348万9300円の減収となる。思いの外、減収分は少ないと感じるのではないだろうか。
しかし、年間にすると12億7359万円余りの減収だ。もちろん小田急もそれでよしとは考えていないであろう。子供IC運賃が一律50円となったことで、子供の利用が増えてほしいと願っているはずだ。1日平均の減収額348万9300円をカバーするには1日6万9786人の子供に新たに乗ってもらわなくてはならない。子供たち全員が往復で乗車するとしても1日3万4893人だ。
ただ、子供だけで鉄道を利用するケースは少ないだろうから、大人が1人付き添っていると仮定しよう。平均乗車距離の14.9km利用したとして大人と子供を合わせた客単価は301円。1日の減収額348万9300円を301円で割ると、大人1人、子供1人のグループが1日1万1592組乗ってくれれば良い計算になる。往復の場合、大人1人、子供1人のグループが新たに1日5796組乗車してくれれば、今回の子供IC運賃の引き下げで生じる減収額をカバーできることになる。
子供連れの家族利用の増加が必須
もう少し範囲を広げて減収額カバー策を考えてみよう。小田急と言えば、箱根観光の交通手段として知られる特急列車の「ロマンスカー」だ。同社のターミナルである新宿駅から小田原駅を経て箱根登山鉄道に乗り入れた先の箱根湯本駅まで大人2人、子供2人の家族4人がロマンスカーを利用して往復したと考えてみよう。
現状では、新宿〜小田原間の大人IC運賃は891円、子供IC運賃は445円(大人のIC運賃の半額で1円未満は切り捨て)、ロマンスカーの特急料金が大人700円、子供350円だから、家族4人で利用した場合、合わせて9544円。子供IC運賃が一律50円となると合計7964円となる。小田急としては1580円の減収となるが、子供IC運賃を値下げしたからこそ掘り起こされた需要だと考えるべきで、大人2人、子供2人の4人家族が1日438組(348万9300円÷7964円)新たに利用してくれれば減収額はカバー可能だ。