2021年9月の介護保険制度の見直しにより、「高額介護サービス費」の自己負担限度額が大きく変わった。この制度は、必要な介護サービスが公平に受けられるよう、1か月の自己負担額に上限を設け、超過した分は申請すれば払い戻されるというもの。医療費の窓口負担に上限を定めた高額療養費制度の介護版と言える。
これまで最大で月4万4000円だった限度額は、課税所得380万円以上(年収では約770万円以上)の高齢者がいる世帯で月9万3000~14万100円に引き上げられた。
この変更により、在宅介護でデイサービスやヘルパーを利用する人の負担が大幅に増えることがある。
80代の両親と同居する68歳男性は、「自己負担上限額が引き上げられたため、両親が利用する介護サービスの月々の負担が2倍に。これでは施設やヘルパーの利用回数を減らさないとやっていけない」と嘆息する。
2021年8月の制度見直しは、特別養護老人ホーム(特養)などの介護保険施設の入所者も直撃した。低所得の人の食費や居住費を助成し、自己負担を軽減する支援措置の「補足給付」制度が縮小されたのだ。
これまで1日650円で済んでいた施設での食費が2倍に跳ね上がったケースもある。この場合、年間では25万円以上の負担増となり、年金だけで暮らす世帯には打撃が大きい。厚労省によると、補足給付の見直し対象者は全国で約27万人に上るという。
これらは既に介護サービスを受けている人の話だが、ファイナンシャルプランナーの黒田尚子氏は「そもそも6割以上の要介護者が公的介護保険を利用していないとのアンケート結果もある」と指摘する。黒田氏が続ける。
「今後も国の介護給付費は右肩上がりで増え続けることが確実で、政府試算によれば2040年には現在の約10兆円から25.8兆円まで膨らむとされます。更なる利用者負担増は不可避ですが、要介護認定で適切な判定を受け、公的制度をフル活用することが、これまで以上に重要になります」