田代尚機のチャイナ・リサーチ

北京で始まった「学校教師によるオンライン補習授業」という“国家実験”

“市場の失敗”を国家が修正

 北京市教育委員会は11月18日付で、「北京市中学(日本の中学、高校に該当)教師の開放型オンライン補習計画(試行)の通知」を発表した。開放型のオンライン補習授業に関する管理サービスプラットフォームを作り、教師たちに補習授業をさせようといった試みであり、とても画期的な内容である。

 具体的には、一対一または一対多数のオンライン補習授業、AI(人工知能)を駆使した質問センター、教師によるマイクロ学習講座が用意される。教師は現役の学校教師を中心に組織する。もちろん、彼らには報酬が支払われ、学生は無料である。そして、かかる費用はすべて市政府が負担する。

 補習科目は国語、数学、英語、道徳・法治、物理、化学、生物、歴史、地理の9科目。実施時間は各学期とも月曜日から金曜日の18時~21時。原則、休日と夏休み、冬休みは行わない。

 実際には、この通知が発表される前から一部の地域の初中学生(中学生)向けに始められており、2021年下期(中国の学期は二期制、下期は夏休み明けから春節前まで)、2022年は全北京市の初中学生を対象にして行われる。

 既存の法律、規則などに縛られず、試行という形式で、一定の地域に限定して試してみる。そこでとにかく実験してみて、上手く行けば全国に展開する。新しいことを始めるときに中国が行う典型的なやり方である。

 教育は労働集約的な産業であるが、オンラインプラットフォームを利用し、AIを駆使すれば、その生産性は飛躍的に高まるであろう。これは、教育分野でのインターネット・プラス戦略として、民間企業が見出してきたビジネスに他ならない。それを国家事業に置き換えるのだといった見方もできる。いわゆる“市場の失敗”を国家が修正しようとしているともいえよう。

 民間企業にとっても多岐にわたる細かい技術的な部分でビジネスチャンスがありそうだ。利益率の面では高くはないかもしれないが、国家主導で広く行われる以上、規模拡大に注力する必要はなくなる。その点を勘案すれば、企業側としては非常に魅力的な分野である。教育は国家の重大事業である。教育予算は比較的引き出しやすいはずだ。

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