もともと1960年代にアシックスの前身である「オニツカタイガー」の輸入・販売の米国代理店として創業したナイキだが、直近の業績(2021年5月期)は売上高445億ドル(約4兆9000億円)という超巨大企業。売上高3287億円(2020年12月期)のアシックスは、国内トップながら大きく水をあけられ、箱根駅伝のシューズでも完全敗北を喫した。
それだけに、社長直轄プロジェクトへの注力は相当なものだった。
コストは度外視していい
前出のアシックス担当者はこう言う。
「厳しい現状を目の前にして、状況を打開する、アスリートのパフォーマンスを最大化する、そして頂点を奪取するというプロジェクトの使命がありました。初期段階においては、一旦は製造コストを度外視してでもアスリートを満足させるシューズの開発に力を注ぐことも確認されました」
そうして昨年3月に発表されたのが「メタスピードスカイ」と「メタスピードエッジ」だった。重視したのは、「速く走ろうとする動作は、人によって異なる」という点だったという。「世界中のアスリートとともに、何時間にも及ぶミーティングを通じ、熱い議論を重ね、研究開発に協力をしていただいた」と同社担当者は振り返る。
誕生した「スカイ」は1歩あたりの歩幅が大きい“ストライド型”の走者、「エッジ」は足の回転の速さで勝負する“ピッチ型”のランナー向けのシューズとなった。
「スポーツ工学研究所での実走テストで何度もデータを計測し、それぞれのタイプの走法に合わせてシューズを開発しました。ストライド型の選手は、しっかりと踏み込んで反発を生かし、前にストライドを伸ばすのでソールをより厚く設計。また、着地のショックを受け止め、その反発で次の1歩が大きくとれるようにつま先部分を厚くして、反り上げた形状にしています」(同前)