徳島県警を退職後は犯罪コメンテーターとして活躍する「リーゼント刑事」こと秋山博康氏の連載「刑事バカ一代」。秋山氏が刑事時代の検視について振り返る。
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おはようさん、リーゼント刑事こと秋山博康です。
テレビや映画で警察の「花形」として描かれる刑事だが、現実には凶悪犯罪を担当する捜査一課への配属を望まない若手警察官が増えているそうや。
激務も理由の一つだが、ご遺体を扱うことに躊躇する若手も多い。
刑事と遺体は切っても切れない関係で、変死事件の捜査では遺体の状況を確認して「自殺」か「他殺」かを見極める。例えば犯人が刃物で人を刺す場合は、刃を上か下に向けることが多く、刺し傷が縦になることがほとんどや。刺し傷が横の場合は自作自演が多い。
絞殺は血液の流れが滞って顔面が鬱血し、まぶたの裏に細かな赤い斑点の「溢血点」が生じる。また首を絞められた被害者は自分の首に爪を立てて抵抗するので、首に縦のひっかき傷が残るんや。
絞殺遺体を運転席に乗せ事故死を装う場合も、プロの刑事は遺体を一目みて「これは殺しや」と見抜く。まさに「遺体は語る」や。
変死体や変死の疑いがあるケースでは、主に警察署の霊安室で刑事と鑑識が検視を行なう。事件性のある遺体については「鑑定処分許可状」という令状を裁判官に請求して監察医が執刀し、その補助を刑事が行なうわけや。
ワシも現役時代、検視や解剖をするのが当たり前で、監察医が取り出した臓器の重量を計ったり、解剖後の遺体を縫い合わせる作業を行なっていた。
検視後は、メスの入った遺体にさらしを巻いて遺族にお渡しする。遺体から出る血でさらしが真っ赤になる場合、ワシは遺体にラップを巻いてから、さらしを重ねた。できるだけ綺麗な状態で遺族と会わせてあげたかったからや。