美容師といえば、カットやパーマの技術だけではなく、客を楽しませるためのトークスキルも大切……。そんな美容師のイメージが、揺らぎ始めている。というのも、「美容師に話しかけられたくない」という人は意外に多いようで、最近ではそのニーズを無視できなくなりつつあるのだとか。実際、「会話なし」のメニューが存在する美容室も存在しており、客から好意的に受け入れられているという。美容師のトークスタイルの変化を、美容師と客、それぞれの声から探った。
昔は美容師で情報収集する人も多かった
かつては「お客さんから話かけてくる人がほとんどだった」というのは、現在は一線を退いた60代の元美容師・Aさん(女性)。スマホはもちろんインターネットが普及する前は、美容室が「情報を得る場」として機能していたという。
「みなさん、情報収集に貪欲でしたね。髪の毛のお手入れ方法から、引っ越しの挨拶はどうすべきなのか、魚のさばき方に至るまで、ざっくばらんな話が展開されました。美容師は多種多様な人と触れ合うので、いろんな話題を知っている。だから話し相手に最適だったのかもしれません。政治やスポーツの話題を一方的に話し続ける男性もよくいました」(Aさん)
最近は「話しかけないでほしい」という客が増えているようだと話を振ると、「それでも美容師側のスタンスはあまり変わっていないのでは?」と感じるそうだ。
「昔は、今で言うカルテを採用する店も少なかったので、お客さんとのコミュニケーションを通して、最適なヘアスタイルを作り上げる必要がありました。そのために会話力は重要で、お客さんの要望を引き出すために雑談も必要でした。さらにお金をいただいているからには楽しんでいただきたいという精神もありました。そういう美容師の考え方が、先輩から後輩へ引き継がれたのでしょう」(Aさん)
「話す客」と「話さない客」の見極めが難しい
現役の美容師たちはどう思っているのだろうか。都内のサロンで働く20代の女性美容師・Bさんは、「話す客」と「あまり話さない客」の見極めが難しいと言う。
「接客にあたってから、このお客様は会話が好きなタイプか、それとも嫌いなタイプか探ります。わかりやすいのは、話しかけてもそっけなかったり、スマホや雑誌をずっと見ている人。そういう人は、少なくとも今は話しかけられたくないんだなと判断し、会話を減らし気味にします」(Bさん)