中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

なぜ回転寿司チェーンとコラボ? 唐津の2つ星寿司店店主の飽くなき探究心

7席しかないカウンターを目指して全国から客が訪れる「鮨処つく田」

7席しかないカウンターを目指して全国から客が訪れる「鮨処つく田」

「つく田」は、私が今住んでいる唐津の名店として知られる。私も何度か同店を訪れたことがあるし、松尾氏と一緒にお酒を飲みに行ったりすることもある。そうした中で先日、松尾氏から「新しいメニューを作っている最中なので、試食にいらっしゃいませんか?」とうれしいお誘いがあった。喜んで営業時間外の「つく田」にうかがい、開発中のメニューを食べさせてもらった。その際、「なぜ回転寿司の監修をするのか?」その意義について、率直に質問させてもらったところ、次のような答えが返ってきた。

「もちろん、私のお店で出すものとは違います。しかし、制限がある中、新しい寿司を作るというのは非常に楽しいことです。かっぱ寿司さんのシャリとネタを使い、いかにして新しい寿司を作るか、といったことを考えるのは、私にとっては別の仕事です。過去にJALの機内食を監修したこともありますので、今回も同様の『別の仕事』です」

 とはいえ一方で、回転寿司チェーンは松尾氏の店にとってライバルといえる存在でもあるのではないか。それについてはこう答えてくれた。

「私は寿司職人ですが、回転寿司の会社で働く人も職人なので、尊敬しています。私が若い頃は、中学生になって握り寿司を初めて食べた、という方が多かったですが、今や回転寿司の登場により、寿司を食べる人の年齢層も下がりました。寿司というジャンルの裾野が広がったのです。それほど値段が高くない回転寿司を食べた人が、今度はカウンターの寿司屋に興味を持っていただくようになれば、それは我々にとっても良いこと。私は回転寿司を一切否定したくありません」

 私が今回「つく田」に訪れた際に頂いた開発中のメニューは、まずスルメイカの稚魚のオイル漬け。これにはなんと、粉チーズをかけて食べる。あとは知り合いのピザ職人から頼まれて作ったというシラスのロザマリーナ(マリネのような塩辛)とカキのロザマリーナなどがあった。全部日本酒とビールに合う。言うまでもなく、いずれも美味である。

筆者が幸運にも試食させていただいた「鮨処つく田」店主・松尾雄二氏が開発中の新メニュー(スルメイカの稚魚のオイル漬け。粉チーズをかけて)

筆者が幸運にも試食させていただいた「鮨処つく田」店主・松尾雄二氏が開発中の新メニュー(スルメイカの稚魚のオイル漬け。粉チーズをかけて)

「鮨処つく田」店主・松尾雄二氏が開発中の新メニュー「シラスのロザマリーナ」

「鮨処つく田」店主・松尾雄二氏が開発中の新メニュー「シラスのロザマリーナ」

「鮨処つく田」店主・松尾雄二氏が開発中の新メニュー「カキのロザマリーナ」

「鮨処つく田」店主・松尾雄二氏が開発中の新メニュー「カキのロザマリーナ」

 このように、「この食材は何と合うか」「この食材にピッタリの調味料は何か」を考え続けているからこそ、今回のかっぱ寿司とのコラボメニューのように「シャリに昆布茶を合わせる」といった発想も生まれるのだろう。かっぱ寿司での松尾氏監修寿司の販売は3月17日まで(なくなり次第終了)。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『炎上するバカさせるバカ 負のネット言論史』(小学館新書)。

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