妻と娘との対立が生じたまさにその時に、不運が襲いかかったという。ノブさんの両親の介護問題だった。蓄えが少ない両親に代わってノブさんが貯金を切り崩し、生活の面倒を見なくてはいけない状況になってしまったのだ。それを知った妻と娘は、ノブさんに対して冷ややかな言葉をかけたという。
「『両親に対してはお金をかけるのに、娘には袴を着せないってひどいよ』と、言われました。ですが、両親への支援は生きるためのものです。娘の袴については贅沢なものですよね。理解されなくてがっかりしました」
最終的には、妻の両親が支援してくれ、娘の「卒業式では友達とお揃いで袴を着る」との願いは叶うことになったそうだ。しかし、この件をきっかけに家庭の雰囲気は良くない状況だという。
「妻と娘からは無視されることが増えました。私なりに仕事は頑張っていますが、コロナの影響もあり、収入が今後上がるかは期待薄です。これから先、娘の教育費はどんどんお金がかかってきます。その度に嫌味を言われてしまうのでしょうか……」
最近は休日に家にいても心が休まらないという理由から、工場での単発アルバイトを始めたそうだ。日給1万円ほど貰えるという。身体は疲れるものの、「金銭的には余裕が出始めたので精神的には楽になった」と、ノブさんは話していた。
式典に華を添える袴姿ではあるが、その衣裳代などを捻出する親たちの負担は大きい。事実、経済的な理由から諦める家庭も珍しくないようだ。小学校の卒業式で娘に袴を着せるか否か──。今後もさまざまな意見が飛び交いそうである。