オバ記者:なるほど。同じ「5000円」でも、そのまま提示されるより、「1万円→5000円」って書かれると、得した気持ちを煽られて、「買わなきゃ損」という気持ちが湧いてきて、思わず飛びつきたくなるわ。
橋本さん:ですよね。
オバ記者:「アンカリング」って誰かが仕掛けるものなの?
橋本さん:数字を認識するのは自分自身です。ただ、たしかに悪用はできます。もともと1000円の商品を定価5000円と書いて、赤線で消して1000円で売れば、人は興味を示しますからね。
オバ記者:それはもともと悪意があっての話だけど、油断大敵ね。冷静に判断しないと。でも、「アンカリング」って、お金に限った話じゃなさそうね。
最初の印象づけによって結果が変わる
橋本さん:はい、その通りです。アンカリングが影響するのは金額に限りません。別掲図のような実験結果があります。
グループAの人たちには「10」という数字を、Bの人たちには「65」という数字をまず印象づけます。その後、何かを質問して、頭に浮かぶ数字を挙げてもらうと、Aの人たちは「10」に近い数字を、Bの人たちは「65」に近い数字を挙げるようになるのです。このように、アンカリングは金額に限らず、人の意識に広く作用すると考えられています。
オバ記者:最初の印象づけによって、結果が変わるってわけね。
橋本さん:んっ、どうしたんですか? 急にニヤニヤして。
オバ記者:いやね、そうした“無意識の印象操作”を私もよくやっているのを思い出したの。原稿が遅れていて編集者から電話で急かされたときに、あと1時間ぐらいで書き上がるかなと思っても、「2~3時間ぐらいかかります」と言っているの。そして1時間後に原稿を送信して連絡すると、相手の声が明るいの。これもアンカリング効果よね?
橋本さん:そうです! 編集者は「2~3時間後」という数字にアンカーされているので、「1時間後」に原稿を受け取れたら「思ったより早い!」と感じるのです。別掲の「身近なアンカリング効果【2】」のように、遅刻しそうなときに、それに似たテクニックを使っている人も多いでしょうね。多めに見積もっておいて、それより早く到着すると、遅れているのにもかかわらず、相手はそこまで機嫌が悪くならない。
オバ記者:生きる知恵ね。