橋本さん:最初の疑問に戻りますけど、無料だったはずの水が100円になるまでには、メーカー側のマーケティング戦略があったのです。「ミネラルウオーター」と名付け、持ち運びしやすいようにペットボトルに入れられ、タレントがそれをおいしそうに飲む様子がおしゃれなCMとして大量に流され……そうやって「100円の水」が市民権を得るようになっていったのです。
100円で水を買うことが当たり前になってしまえば、70円のペットボトルはずいぶん安く感じます。で、「70円」が頭の中で固定されると今度は、コンビニで100円で売っているペットボトルが高く感じるようになる。このように、判断基準は変わっていくものなのです。
「アンカリング」は固定観念を生じさせ、人はその範囲から遠くには動けなくなるものですが、大切なのは「頭を柔軟にしていろいろなことに気づく」ということです。そういう意味では、水の値段に疑問を持ったオバ記者さんは頭が柔らかいんだと思います。
オバ記者:要するに、自分の中で正解を持っておけば、心穏やかに安心して暮らしていける、ということはあるかもね。
橋本さん:何事も決めつけず、柔軟な思考で一度立ち止まって見直すことが大切です。
オバ記者:立ち止まるっていい言葉ですね。
(第2回につづく)
【プロフィール】
橋本之克さん/マーケティング&ブランディングディレクター。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。近著に『9割の買い物は不要である』(秀和システム)。
「オバ記者」こと野原広子さん/空中ブランコや富士登山など体当たり取材でおなじみのライター。女性セブン連載『いつも心にさざ波を!』も好評。64才。
取材・文/藤岡加奈子
※女性セブン2022年3月24日号