【書評】『教養としての金融危機』/宮崎成人・著/講談社現代新書/968円
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)
世界恐慌の引き金となった1929年のニューヨーク株の大暴落から、2009年のギリシャ危機に代表されるユーロ危機まで、この100年間に世界は大きな金融危機を9回も経験している。
それぞれの危機は、原因も、結末も異なっているが、なぜ金融危機が繰り返されるのか。著者の見立ては、国際金融システムのなかに蓄積された「歪み」が耐えきれなくなって崩壊するからだという。
その歪みを、それぞれの金融危機ごとに、ストーリーとして読ませるというのが本書のコンセプトだ。金融危機は、現実には複雑な要因が絡み合っているのだが、著者は本質の部分だけを抽出して、アウトラインをコンパクトにまとめている。だから、読んでいてとても分かりやすい。いままで読んだどの金融危機の本より、すんなり頭に入ってくる。
そして、本書の一番素晴らしいところは、ニュートラルだということだ。著者は大蔵省に入省して、副財務官まで務めた元財務官僚だ。財務省出身者の著作の多くは、財務省の「教義」である緊縮財政を無条件に是認するという強いバイアスを持っている。しかし、本書にはそうしたバイアスがない。それどころか、財務省が最も嫌うMMT(現代貨幣理論)についても、是認するところまでは行っていないが、ひとつの考え方として紹介しているのだ。
本書の最大の見どころは、9つの金融危機の物語ではなく、最後に据えられた10番目の金融危機、すなわちこれから発生する金融危機についての記述だ。
9つの金融危機の歴史をみれば、金融危機がある日突然発生するのではなく、その前に伏線がある。著者はニュートラルなので、「いますぐ金融危機が発生するぞ」といったセンセーショナルなことは書かない。しかし、最終章で著者が掲げている米国の金利引き上げや資産価格のバブルといった状況を踏まえると、私は非常に近い将来に10番目の金融危機が発生する可能性が高いと思う。危機に備えるためにも、必読の書だ。
※週刊ポスト2022年4月1日号