「今年の卒業生は3年間コロナ禍で過ごし、体育祭も文化祭も修学旅行もできなかった。だからこそ、卒業式だけは開催してあげたくて……」。県立高校の教頭を務めるAさん(58才)はそう胸をなでおろす。
戦後の日本では卒業式が毎年、当たり前に行われてきた。だが、これまでを振り返ると1969年には学園闘争の嵐が吹き荒れ、2011年には東日本大震災が起き、2020年からはコロナ自粛の影響で、卒業式開催が危ぶまれる事態が続いている。スクールカウンセラーで新潟青陵大学大学院社会心理学教授の碓井真史さんは、次のように語る。
「3年連続コロナ禍となった今年は、必要最小限で卒業式を行う学校がほとんどです。式がなくても卒業はできますし、命がけで行うものではないという意見もあります。ただ、『ピーク・エンドの法則』【*】という心理効果があるのですが、これによると、学校生活の最後を飾る卒業式をいいセレモニーにすることが、次のステップへのやる気や希望を生み出す原動力になるため、卒業式を行うことは大切なのです」
【*ピーク・エンドの法則/心理学者・行動経済学者のダニエル・カーネマンが提唱した、「ある経験を印象付けるのは、その経験のピーク時と終わり頃の出来事である」という法則】
卒業式の正式名称は「卒業証書授与式」という。学校生活を終えた証をもらい、新たな一歩を踏み出す区切りの日だが、そのあり方はどう移り変わってきたのか。
コロナ禍でよりシンプルに
まずは別掲の卒業式の進行プログラム「式次第」を見てほしい。2008(平成20)年のある都立高校の式次第には、国歌斉唱、卒業証書授与、校長式辞、来賓祝辞、校歌斉唱とオーソドックスな項目が並ぶ。
「式次第の中身は、この50年、ほぼ変わっていませんでした。それが2年前の2020年にコロナ禍で来賓と在校生が参加しない最小限の形になりました。来賓の祝辞も送辞や答辞もなくなり、かなりシンプルに様変わりした感がありますね」(都内某都立高校元校長)
それに加え、今年は「保護者をひと家族1名限定」「式辞は3分以内」「飛沫の飛びやすい斉唱や吹奏楽演奏は自粛」などとなっている。